[論説]消滅可能性自治体 推計に意味はあるのか
消滅可能性が高いとされた744の自治体は、全体の4割を占める。前回同様、20、30代の若い女性が2050年までの30年間で半分以下になるとの推計を根拠に「消滅可能性」と位置づけた。
消滅という厳しい言葉を使い、各自治体の人口減少対策を再び促すことが狙いとみられるが、若い女性の動態を根拠に「消滅」と定義づける妥当性には疑問を感じる。
10年前の消滅可能性リストの発表を機に、政府は地方創生へ本腰を入れたが、自治体同士が若者や移住者を奪い合う負の側面も目立った。今回の推計を機に、政府が新たな対策に乗り出すことが想定されるが、これまでの政策の検証なくして効果的な対策には結びつかないだろう。
推計の結果に対し、全国町村会の吉田隆行会長(広島県坂町長)は26日、「人口減少への対応や独自の地域づくりに懸命に取り組んでいる」とした上で「地域の努力や取り組みに水を差すものである」とのコメントを発表した。
島根県の丸山達也知事も、消滅可能性から脱却した自治体が多かった今回の結果に喜ぶのではなく、冷静な批判を展開。今回の推計に「違和感」があるとし、人口減への対策は自治体ではなく、国の問題であると強調した。
10年前も今回も、消滅可能性が全国で最も高かったのは群馬県南牧村。日本農業新聞の連載企画「この地でずっと」では、消滅という“宣告”に関わらず、村で生きる高齢者のひたむきな姿勢や、小さな村にこそ希望を感じ、地域のなりわいづくりに奮闘する若者たちを報道した。こうした現場の取り組みが、推計には全く反映されていない。
消滅と名指しされても、各自治体では地域づくりが進んでいる。そもそも、各自治体の推計を10年前と比べて評価することにどんな意味があるのだろうか。都市と農村の関係人口の創出や地域運営組織(RMO)づくり、暮らしを守る対策などの取り組みを進める自治体が憤ったり疑問を抱いたりするのは当然だ。
少子高齢化に伴う人口減少は差し迫った課題である。人口減少を受け入れた上で、誰もが生きやすい社会の実現に向け、国はもっと根源的な問題に向き合う必要があるのではないか。持続可能な地域づくりや人口減少対策の“特効薬”はない。今回の推計に踊らされてはならない。