[論説]改正食品衛生法の施行 地域の漬物守る支援を
法改正は、2012年に北海道でハクサイの浅漬けを食べた人が、腸管出血性大腸菌O157に感染し、8人が死亡する集団食中毒が発生したことがきっかけとなった。製造施設での衛生管理の不備が原因とされる。21年に施行し、3年間の経過措置を経て今年6月以降、加工施設と生活場所を分離するなどの衛生基準を満たし、保健所からの営業許可を取得しなければ、製造販売できなくなった。
この影響を受けるのが、漬物を製造販売する農家だ。直売所などで販売する漬物の多くは、農家が自宅で製造しているが、今回の厳しい衛生基準をクリアするには、改修費などの負担がかかるため、漬物作りをやめてしまうケースも見られる。
宮崎県延岡市を拠点とするJAみやざき延岡地区本部の産地直売所「ふるさと市場」では常時30人ほどが漬物を出荷していたが、半数が漬物作りをやめた。同直売所の中尾浩士店長は「自治体による支援制度があれば、続けられた農家もいただろう」とし、行政による支援を求める声が上がる。
地域の漬物がなくなれば、食文化が途絶えることになる。農家の意欲もうせてしまう。製造を続けられるよう、行政による支援が欠かせない。
参考にしたいのは、秋田を代表する漬物「いぶりがっこ」の産地、秋田県横手市の取り組みだ。市は漬物の設備を改修する費用を助成し、補助金の申請手続きや、相談に応じる専属の職員を配置するなど独自の支援をしている。農家にとって負担の重い施設や漬物の保管場所は、共同利用ができるよう、市の施設を改修・増設した。
一方、県は22、23年度、漬物を製造する生産者に対し、事業費を補助した。特色ある漬物を守りたいという行政の強い意思がうかがえる。県によると4月30日までに、県内の363件が新たに漬物の製造販売の営業許可を取得し、うち134件が、県の補助金を活用し、漬物製造を続けている。こうした試みを各地に広げたい。
気候変動が激しい中、規格外となって廃棄されてしまう農産物は多い。これらを加工し価値を高めて販売すれば、農家所得の向上につながる。
地域ならではの漬物の製造販売を続けられるよう、行政による支援を求めたい。