[論説]値上がりする米 需給逼迫の要因を探れ
“異変”が生じているのは、業者間の米のスポット取引だ。「コシヒカリ」「あきたこまち」などの主要銘柄をはじめ、全般的に価格が上がっている。産地と米卸の相対価格がおおむね横ばいで推移していることとは対照的な値動きとなっている。
ただ、スポット取引の価格急騰は、仕入れに苦戦する米穀店が増えている証拠で、米販売の最前線で何が起きているのか、注視しなければならない。米穀店で組織する日本米穀商連合会(日米連)が5月半ばにかけて行った会員米穀店へのアンケートでも、「米の調達に苦戦する」との回答が約9割に上った。
スポットでの取引価格が急騰している原因は、不透明だ。2023年産米の作況は公表通りとしても、猛暑の影響で白未熟粒などが多く、精米時の選別で主食用から漏れる米が増えていると指摘する業界関係者もいる。温暖化の影響で今夏も猛暑となる可能性は高く、看過できない問題だ。精米の段階でどの程度の歩留まりとなっているのか詳細な調査を行い、急騰の原因を明らかにしてほしい。
米の需要量の実態も判然としない。農水省によると、米穀販売業者への販売数量は昨年4月以降、前年同月より増え続けている。今年2月は前年を7%も上回った。一方、総務省の家計調査では、米の購入数量は微減傾向だ。
農水省の調査は、米穀卸が小売りや外食などに販売する数量で、総務省の家計調査とは対象が違う。このため、どちらの調査が、米の需要を見通す上で正確な情報か、分からない。パンや麺類などの価格が上がる中で、節約志向の高まりを受けて、米に回帰している表れなのか。実態の把握が求められる。
人口減少社会を迎え、毎年10万トンのペースで減り続けてきた米の需要量が一転し、今後も増え続けると見通すのは難しい。だが、需要減のペースがここで鈍化しているならば、所得減に苦しむ米農家にとって励みとなる。食料安全保障の確保は、水田などの農地を維持することから始まる。米を中心とした食生活の見直しにつながる可能性もあり、検証の結果次第で、需給見通しの修正も検討すべきだ。
米の生産力確保と経営安定は、食料安保確立に向けた「一丁目一番地」。値上がりの要因を検証し、今後の米政策に反映してもらいたい。