生乳の過剰問題 酪農の生産基盤を守れ
2014年末に起こったバター不足の混乱を機に、産地は生乳増産へアクセルを踏んだ。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大による学校の一斉休校などで飲用牛乳の需要が激減、生乳の需給バランスは大きく崩れた。昨年末は生乳廃棄が目前となったが、酪農家や乳業メーカーなどの取り組みや、消費の喚起で乗り切った。
危機は続いている。春休みで学校給食がなくなる時期と、生乳生産が増えるタイミングが重なり、生乳需給が再び狂い出した。6月までは廃棄の危機に直面するとみられ、牛乳・乳製品の消費拡大を急ぐ必要がある。
生産抑制も必要だが、生き物である乳牛の乳量をすぐに減らすことは難しい。主力の北海道では、昨秋から牛の廃用を早めるなどして抑制策に取り組んでいる。
北海道は、農水省の2030年度を目標にした「酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近)」に沿い、増産態勢を整えてきた。増頭や機械投資を行った酪農家も多く、現場からは「増産計画に合わせて投資をしてきたが、償還計画が狂ってしまう」との悲痛な声が上がっている。
輸入飼料や燃料代など資材価格の上昇も、経営を圧迫する。日本政策金融公庫が1月に行った農業景況調査では、「資金繰りが苦しくなった」とする酪農家が大幅に増えた。
酪肉近の増産計画は、政府が掲げる輸出の拡大方針に沿うものだ。その出はなをくじく生産抑制は、酪農家の経営意欲の減退だけでなく、離農や地域全体の疲弊につながる。生産基盤をこれ以上、弱めてはならない。
生乳換算で約500万トンもの輸入乳製品を国産に切り替えるための政府支援が極めて重要だ。生乳に過剰が生じた時に備える需給調整機能の仕組みも構築すべきだ。生産者、乳業メーカー、国の三者で資金を出し合う「基金」の恒久化を求める声が上がっている。政府・与党には早急に対応してもらいたい。
米同様、需要が減って農家が苦しんでいる時でも、義務的な輸入を求める世界貿易機関(WTO)ルールへの批判もある。食料安全保障の観点からも、政府はルールの見直しに向けた外交努力をすべきだ。
日本農業の柱である酪農の生産基盤を弱体化させてはならない。食料安保に欠かせない酪農を維持・発展させる取り組みが重要だ。