出場するのは、全て雌牛だ。このため一部で「美人コンテスト」と呼ぶ人も。しかし共進会で数多くの受賞歴を持つ十勝管内の酪農家は「ただ容姿を競うだけではない。牧場の安定経営に貢献してくれる、健康で長く乳を生産できる牛を一頭でも多く生み出すための改良の方向性が学べることに意義がある」と強調する。
生年月日や未経産牛か経産牛かで区分された20の部門がある。会場内で列をなして歩く出品牛を、審査員が一頭ずつじっくり観察し、序列を決める。各部門の成績上位牛によるいわば“決戦審査”もあり、大会で最も優れた牛に「最高位賞」の栄冠が与えられる。
大会の歴史は、70年以上前にさかのぼる。戦後間もない1951年に昭和天皇の行幸を仰ぎ、神奈川県で第1回大会が行われた。その後も“酪農の祭典”として飼養管理技術の研さんの場としても、開催地の消費者に日本の酪農に対する理解を深めてもらう場としても活用され、ブランドを高めてきた。

審査は同協会が定めたホルスタイン種雌牛の「審査標準」に沿って行われる。体の姿や形を見る「体貌と骨格」、肢やひづめの質や形を見る「肢蹄(してい)」といった四つの区分をチェックし、評価する。
満点100点中の40点を占め、最も重要な審査ポイントとなるのが乳器だ。乳房の付着の強さや発達度合い、乳頭の太さと長さが適度にそろっていることなどが求められる。
「体貌と骨格」は25点、「肢蹄」は20点が配点される。残る15点分は、「乳用強健性」として生乳の生産能力が表れている部分を評価する。具体的には、頸(くび)が長く、肩と胸へ滑らかに移行しているか、肋(ろく)は肋骨が幅広いかなどが審査される。
今大会は、10月25、26日の2日間、北海道ホルスタイン共進会場(安平町)で開く。北海道が舞台となるのは2015年の第14回大会以来、2度目。ホルスタイン種368頭、ジャージー種32頭の計400頭程度の出品を見込む。20年の第15回「九州・沖縄ブロック大会」(宮崎県会場)がコロナ禍で中止された中、10年ぶりの開催へ、関係者の盛り上がりが日増しに高まる。
大会前日の24日には付帯行事として、リードマンコンテストといった「後継者育成プログラム」が開かれる。前回大会からの10年間で酪農情勢が大きく変わる中、若い世代の酪農業界への参入意欲をかき立てる大会にできるかも注目となる。

今大会で地元・北海道の代表として誰の牛が出品するかは、どのように決まるのか。開催地事務局の北海道ホルスタイン農協によると、9月を中心に道内10カ所で開催される地区ごとの乳牛共進会で上位に入ることで、ホル全共の出場資格が得られるという。
前回までは地区共進会を勝ち抜いた後、秋の全道共進会「北海道ホルスタインナショナルショウ」に出場し、上位に入ることが条件だった。どの地区からも偏りなく出品者を輩出できるよう、選考過程が見直された。
このため、本年に限りナショナルショウは開催されない。地区共進会の開催時期は、例年より1カ月程度後ろ倒しになる格好。見直しを踏まえ、ホル全共への出場切符をつかもうと、予選の時期に照準を合わせて分娩(ぶんべん)のスケジュールを調整するなどの動きも出ている。
春の全道共進会「北海道ブラックアンドホワイトショウ」は、例年同様に開催される予定。今年はホル全共の開催が近づき、いつも以上に熱を帯びる大会となりそうだ。
追随許さぬ道勢の実力


過去大会では北海道勢が圧倒的な実力を見せつけてきた。2000年の第11回大会で新設された「最高位賞」は、過去3大会中2大会(中止を除く)で北海道の出品牛が獲得している。第16回大会においても「酪農王国」の栄誉を懸け、最高位賞の行方に注目が集まる。
05年に栃木県壬生町で行われた第12回大会では、福屋牧場(恵庭市)が出品した「エルムレーン スカイチーフ サニー ET」(ホルスタイン第10部)が同賞に選ばれた。名誉賞も道出品牛が独占。最高位だけでなく名誉賞も逃した前大会での雪辱を果たした。
15年に胆振管内安平町で行われた第14回大会では、天野洋一さん(十勝管内更別村)出品の「レデイスマナー MB セレブリテイ」が頂点をつかんだ。年齢が最も高い14部の牛で、力強さや品格が高く評価された。ホルスタイン種14部門の優等賞1席を全て北海道勢が獲得し、名誉賞を総なめにした。ジャージー種でも4部門中3部門を制した。
15年大会で最高位賞 天野洋一さん(更別村)

【帯広】十勝管内更別村の天野洋一さん(50)は、2015年に行われた第14回全日本ホルスタイン共進会北海道大会で最高位賞を受賞した酪農家だ。また、栃木県の第12回大会でも優等賞1席を受賞するなど、以前から数多くの共進会に出品し、多数の受賞歴を持つ。今年の北海道大会に、再び出場しようと意気込んでいる。
天野さんは飼養頭数140頭(うち経産牛70頭)、面積61ヘクタール(牧草、飼料用トウモロコシ)で、主に息子夫婦と3人で経営している。平均乳量は約1万2000キロで高泌乳牛も多く飼養する。
高騰する配合飼料が飼料コスト全体の3割ほどを占め、近年の価格高騰が経営にのしかかるが、牛群の改良を着々と進めている。
天野さんは「牛の長命連産のためには体型が重要な要素。改良の成果を見るためにも共進会への出品を続けている」と、共進会の意義を強調する。
牛をよく観察して気を使い、牛を乳房炎などの病気にさせないよう管理する。加えて、23年には、厳しい猛暑を経験したことから牛舎内に扇風機を増設し通気を改善。牛群改良だけでなく、飼養環境の整備も進めている。今後は酪農情勢を見ながら、搾乳施設の更新も検討しているという。
天野さんは「まずは全共の予選となる十勝の共進会で良い成績を残すことが大事。日常の仕事の励みになるような大会にしたい」と意気込んでいる。
道内で好成績“常連” 吉野牧場(北見市)

【北見】北見市で乳牛180頭を飼育する吉野牧場は、道内の共進会などで優秀な成績を収める常連だ。同牧場は「長命連産」「基本を大切に」をモットーに乳牛の改良に努める。2025年も各種の共進会で好成績を目指している。
吉野牧場は23年9月開催の「第18回北海道総合畜産共進会」(乳用牛部門)で、出品した2頭が最高位と準最高位を受賞する全道初の快挙を達成。24年5月の「北海道ブラックアンドホワイトショウ」でも、最高位を受賞した。経営主の吉野英之さん(59)の息子で、後継者の裕規さん(31)は「たくさんの人に喜んでもらえた」と、全道共進会での栄冠を振り返る。
現在は英之さんが加療中のため、裕規さんが中心となって飼養管理に励んでいる。困った時には、北海道酪農の発展に寄与した人に与えられる「宇都宮賞」を受賞した経歴も持つ英之さんに相談。いつも的確なアドバイスをしてくれ、「勉強になるので意欲も湧く」と話す。裕規さんは「牛の状態がどんどん良くなって、良い牛がそろうと毎日の作業が楽しくなる」と前向きだ。
15年の北海道大会のころ、裕規さんは大学を卒業し、宗谷管内豊富町の栗城牧場で実習をしていた。共進会で多数の入賞実績を持つ同牧場で学んだ経験が今も生きている。
英之さんが積極的に共進会へ出品し、乳牛の改良に力を尽くしていることは就農前から意識していた。「これからも骨格、乳房、産乳能力などを意識して、牛を大切に生産性が伴う長命連産を進めたい」と力を込める。
全日本ホルスタイン共進会に出品するためには、その前の管内の共進会で良い成績を上げることが必要条件だ。「厳しい競争となるが、自分が納得できるいい状態で臨めるよう努力したい。もう、共進会は始まっている」と気を引き締める。
JA北海道中央会副会長 小椋茂敏氏

これまで道内数多くの共進会に出品してきたが、ホル全共にわが家が出品したのは、JA上士幌町の組合長だった2015年大会のただ1回。改良を志す全国の酪農家にとって憧れの舞台である全共に出られ、縁もあり北海道の団長に選ばれ選手宣誓をした。良い経験になった。
共進会に参加していようといまいと酪農家はみんな乳牛改良に取り組んでいる。全共は、ただ牛の甲乙を付けるだけの催しではなく、全国の優れた生産者が一堂に会し、改良技術の情報交換や仲間づくりができることにも大きな意義がある。
前回大会からの10年間で、酪農の情勢は相当厳しくなった。そこから完全に回復し切れない中で今年の全共を迎えるが、そんな情勢だからこそ改良はおろそかにしてはいけない。必ず自分の経営に良い影響を与え、所得向上にもつながる。
出品できる頭数は決まっており、道内は予選を勝ち抜くのもハードルが高い。各地区予選の開催日に牛を一番良いコンディションにするには、毎日の改良の積み重ねが重要になる。ただ、結果が全てではない。うまくいかなかった人は改善すべき点を次に生かし、上位に入った人もそれに満足することなく取り組みを継続し、良い経営につなげてほしい。(聞き手・松村直明)
おぐら・しげとし 十勝管内JA上士幌町組合長を経て、2023年から現職。父の影響から数多くの共進会に出品し、優秀な成績を収める。乳牛改良の部で19年度第52回宇都宮賞を受賞するなど改良の手腕は全道で著名。
日本ホルスタイン登録協会副会長 山口哲朗氏

ホル全共は、第15回として予定していた九州・沖縄ブロック大会が新型コロナウイルス禍で中止となり、10年ぶり、かつ再び北海道での開催となる。酪農経営が厳しい今こそ乳牛改良の意義を改めて確認してほしい。
酪農の三つの柱は土づくり、草づくり、牛づくり。この「牛づくり」を進めるのが共進会だ。酪農危機の中、たくさん餌を食べ、たくさん生乳を生産し、長命で連産性に富む牛が改めて見直されている。2023年9月の北海道総合畜産共進会で審査員を務めた米国の酪農家パット・コンロイ氏も「機能的・強健性」として表現し、会場の多くの酪農家も理解を示したはずだ。
今大会では、各地区共進会を勝ち抜いた牛は直接、全共に出場できる。従来のような道段階の大会を経ない。このため道内から過去最多クラスの200頭規模が出品する見込みだ。酪農家には一人でも多く出場し、経験を持ち帰り、地域の酪農のレベルアップにつなげてほしい。
次世代育成も重視する。高校の出品牛からは負担金を取らず、また、高校出品牛の中からチャンピオンも決定する。高校生たちには結果以上に技術研さんや大会での交流を通じ、将来は、酪農や酪農に携わる仕事に従事してほしい。(聞き手・関竜之介)
やまぐち・てつろう 2006年から15年まで、オホーツク管内JAえんゆう専務。04年5月から、北海道ホルスタイン農協の理事となり、16年5月からは同農協組合長、日本ホルスタイン登録協会副会長を務める。