価格帯を幅広く
笑顔でタマネギ3袋を購入した小町几志さん(88)。近所の吉田農場(東京都練馬区)にある5台の自販機から目当ての野菜を探すのが日課だ。
吉田農場は季節野菜を中心に年間約30品目を栽培し、約30年前にロッカー式の自販機を置いた。多い月で80万円を売り上げるほど人気で、地域住民から親しまれている。
代表の吉田智博さん(38)は「自販機で販売する野菜は、定番野菜8割、珍しい野菜2割が目安」と話す。珍しい野菜はレシピや紹介文を添え、利用者が手に取りやすいよう工夫。販売価格は100~400円。同じジャガイモでも大きさや個数で値段を変え、幅広い世帯のニーズに応える。「この時期に行けば、〇〇が買える」と地域住民に思ってもらえるよう、毎日、同じ野菜を出し続けることも心がける。
初期費用(自販機)約30万円
※約30年前当時(1台当たり)
月々のランニングコスト(電気代)約1500円
1カ月の売り上げ平均30万円
両替機で来客増
管理は姉の砂田奈津美さん(42)が担当する。設置当初は100円玉しか使えず、両替に追われた。半年後に両替機を導入したことで、スムーズに購入できるようになり、集客力向上につながった。
自販機周辺に設置したのぼりは季節ごとにデザインを替え、「トマトは6月から販売開始」など自販機に貼るPOP(店内広告)も工夫し、リピーターをつかむ。価格は近隣スーパーなどを参考に、ナス4本200円、キュウリ3本200円など200~500円に設定。夏場は保冷剤を入れ、鮮度を保つ。販売時間は仕事帰りの住民を意識し、午後1~9時に設定する。
砂田さんは「配置場所も毎日変更し、利用者が飽きない仕掛けを常に考えたい」とアイデアを練る日々だ。
初期費用(自販機+収納庫)約70万円
※国の経営継続補助金を活用し、実質負担は20万円
他費用(工事費、監視カメラ、照明、POP)約20万円
追加費用(中古の両替機購入)約20万円
月々のランニングコスト(電気代、POP)約5000~1万円
1日の売り上げ 約3000~2万円
冷蔵品にも対応
東京都練馬区の加藤トマトファームは22年11月に「マルチ君」を設置し、トマトの加工品(ジャム、ジュース)やエダマメなどを販売する。初期費用は約100万円で、月々の電気代は2000、3000円という。
代表の加藤義貴さん(36)は「暑さによる品質劣化を防ぎ、取れたての新鮮な野菜を味わってほしいと導入し、売れ行きも好調」と手応えを感じている。この他、群馬県高崎市のイチゴ農家も利用する。
最大10種類を販売でき、1台当たりの収容個数は220個まで。オプションでキャッシュレス決済や売り上げのデータ管理にも対応する。商品企画部の中山正樹担当部長は「野菜や加工品が一緒に扱えて、幅広い商品を販売することができる」と強みを話す。
<取材後記>
冷凍ラーメンや宮崎牛、ショートケーキなど、変わった商品の自販機があると、つい買いたくなる。そんな動機から取材を進めると、自販機が農家の有力な販売先になっていることが分かった。
最近は無人販売所での盗難被害や料金の過少支払いがよくニュースになる。自販機は防犯の観点からもメリットが大きいと思う。非対面販売による顧客との接点が失われることを懸念したが、それは杞憂に終わった。回転率が高い農家は、しっかりと地域のファンをつかんでいた。
取材した練馬区では、区が独自に農業アプリを開発。アプリは区内の野菜自販機を含む庭先直売所が網羅され、最新の販売情報を知らせてくれる優れもの。早速、ダウンロードし、同じ練馬区民として、少しでも農家の売り上げに貢献したい。
(志水隆治)