語呂合わせや社内公募も
レタス
サカタのタネ(横浜市)は、「品目の営業担当が主となって決める。その担当者の個性やアイデアが表れやすい」(コーポレートコミュニケーション部)という。営業担当が品種の特性を踏まえて、印象に残りやすく親しみのある名前を提案。その後、育成担当の意見も取り入れつつ、協議して決める。
同社のレタス「セレブレーション」シリーズは、アメリカンフットボールに関わる名前で統一されている。攻撃の一手「パワースイープ」や、ディフェンス側がパスを奪う「インターセプト」などだ。営業担当の1人がアメフト好きだったことが理由だ。
同シリーズは耐病性があり、形状も崩れにくい。アメフト関連の名前にすることで、力強さを表現した。
栗カボチャ
栗カボチャの「ブラックのジョー」は、果皮が貯蔵しても変色しにくい特徴を持つ。そこで営業担当が、黒い(ブラック)果皮が常(ジョー)に保たれることから、「ブラックのジョー」と提案した。2018年には、講談社(東京都文京区)のボクシング漫画「あしたのジョー」と連携したキャンペーンも実施。「この名前にしたからこそ、コラボを実現でき、広く周知することができた」(サカタのタネ)
ブロッコリー
担当者の個性が全く出ないケースもある。同社のブロッコリー「おはよう」は、試作段階での番号が「SK3―084」。「084」の語呂合わせから、試験栽培された産地で「おはよう」と呼ばれて親しまれ、そのまま品種名にも採用された。農水省によると、「おはよう」は主産地で最も栽培されている人気品種となっている。
トマト
タキイ種苗(京都市)は、トマト「桃太郎」シリーズが広く知られる。「桃太郎」には「桃のように甘いピンクトマト」の意味や、童話の「桃太郎」のイメージから、子どもにも食べてもらいたいという願いが込められているという。
同社では、野菜の品種名を決める際、その品種の特性に合う名前のイメージを育成担当者が伝えた上で、候補を社内で公募。その後、社内の専門委員で品種名の候補を協議し、候補を絞る。社内全体で、残った候補で多数決を行い、さらに絞る。これを繰り返して候補を減らし、最終的に社内投票と専門委員の決議で決定する。
新品種で、春先の高温の影響でへた周辺が変色する黄変果に強い「桃太郎ブライト」は、育成担当者から「赤く輝いている印象に」という要望を基に、一連の社内手続きを経て命名に至った。
菊
品種名の考案役を特定の人が担うケースもある。花きメーカーのイノチオ精興園(広島県府中市)は、営業部の林彩子さんが品種名の候補を三つ出し、営業担当者らで投票し決める。同社の品種と伝わるよう、菊では必ず「精」や「セイ」を付けるなどのルールがある。
最近では、「長く産地に愛されてほしい」との思いを込め、「精の廻(めぐる)」「精興永世」といった品種名を考えた。林さんは「漢字辞典片手にあれこれ考えるのはひと苦労。それでも、生産者の何気ない会話から、自分が考えた品種名が聞こえて来たときは、やりがいを感じる」という。
<取材後記>
消費量が多く、国民生活に欠かせない「指定野菜」にブロッコリーが格上げされた際、X(旧ツイッター)のある投稿に5万件を超える「いいね」が付いた。「ブロッコリー おはよう」というラベルが貼られたブロッコリーの写真に、「近頃のブロッコリーはあいさつもできるので、昇格したのも納得がいく」という文章が添えられた投稿だ。
これに対して、「礼儀正しい!」「急にいとおしく思えてくる」などと、数多くのコメントが寄せられた。品種名が、ブロッコリーそのものの魅力を広めるきっかけになった。農作物は品質や外観、産地イメージが消費者の選択に影響を与えると思ってきたが、品種名の力、可能性を実感した。
