JA全中は18日、東京都内で第30回JA全国大会を開き、今後3年間のJAグループの方針を決議する。農業や地域を支えるJAの存在意義を国民に示し、どう次世代につないでいくのか。JAが歩むべき道筋について、識者とJA組合員組織代表に聞いた。
採用難で離職も多い今、人材の定着には、女性や若者らの多様な意見を反映し、風通しの良い職場をつくることが大切になる。
NHKの朝ドラ「虎に翼」で、繰り返し出てきた「はて」という言葉。主人公が男社会などへの違和感や疑問を発したもの。今の若者にも、女性に限らずいろいろな「はて」がある。JAは、農家や職員が発する「はて」を生かし、「はて」と感じる人に役割を与えられる組織になってほしい。「はて」を可視化・数値化する努力も大切になる。
働きやすさと共に求められるのが「働きがい」。小さくても良いので、責任のある仕事を若い頃から任せることが大切。自分の能力に自信がなくて昇進をちゅうちょする人も多いというが、階段を一つ上れば、今まで背伸びやジャンプをしないと見えなかった景色がいつも見渡せるようになる。それが新たな成長を後押しする。
リーダー像も変化している。技術や消費者ニーズなどの変化が激しい時代。その変化と部下の全てを掌握し、統率し続けるのは難しい。部下の得意分野を生かし、不得意を経験や人脈で補えるリーダーが求められる。多様な人材に合わせて職場を変えていくことも必要になる。
多様な人材を受け入れる努力が組織全体の活性化につながることは、農福連携で学ぶことができた。
障害者がいれば、農業は「重労働」「熟練作業」という意識を変えて労働環境を改善しなければならない。そのための投資で作業効率が上がり、それが規模拡大や新たな人材の確保につながった事例があった。最初は障害者雇用や人手不足解消の観点で始めた農福連携が、経営そのものを変えることができる。
今までとは違う人材を増やすことは最初は大変。その代わり、思わぬスピードで物事が変わる可能性がある。農業もJAも仕事や作業が多様だからこそ、多様な人材が活躍できる場がある。
今の若者が仕事に抱くのは「社会を良くするために役に立ちたい」「仕事を通じて成長したい」という思い。これは協同組合との親和性があると考えている。組合員自ら社会を考えて議論して方針を決め、動くという自主性の高さや、学び、議論し、積み上げる文化が根付く組織でもあるからだ。
協同組合は社会への貢献や自分の成長を形にできる――。若者にそう感じてもらえるチャンスが訪れている。
(聞き手・岡信吾)
経済や社会の環境変化の中で協同組合への評価は高まっているが、十分とは言えない。協同組合はこれまで、自らが果たしてきた役割を十分に発信できていなかった。IYCを契機に、さまざまな機会でアピールしていく必要がある。
JAも果たしてきた役割や価値を発信してほしい。JAの強みは、多様な事業を展開することだ。農業や食、金融にとどまらず、健康、社会的支援など、“揺り籠から墓場まで”一貫してサービスを提供できる。これは、世界の協同組合でも極めてまれな例だ。
もちろん、農業の協同組合として食料安全保障を重視し、持続可能な農業・農村の実現を主導することが重要だ。それができなければ、JAそのものが生き残れない。高齢化や過疎化が進み、日本の農業は岐路に立っている。地方の人口減少は進む一方、農業者の価値観は多様になっている。気候変動で、生産方法の見直しを迫られることもあるだろう。
JAの使命は大きい。若い農業者を増やし、所得確保を導かなければならない。新たな技術、人工知能(AI)などを活用して持続的な農業生産の在り方を模索することが求められている。大都市への人口集中が課題になる中で、生活費の安さや子育てのしやすさを強みに、農村部にどう若者を呼び込むかも考える必要がある。
世界各地で、持続可能な農業生産を求める運動やデモが活発化している。オランダでは農業者主体の政党が選挙で躍進した。農業基盤を維持し、食料安全保障や食料主権を確立するには結束が必要であり、協同組合運動はその柱になる。
農業者や地域住民がその地で暮らしを維持するために、何が必要か。JAがさまざまな解決策を提示していかければならない。
JAや協同組合の価値を国民に広く伝えるための基盤は、連帯し、一体で運動することだ。JAとしてのアイデンティティーを守り実行する。協同組合間や他の組織とのコミュニケーションを深めることも欠かせない。
協同組合は、自らの行動で社会を導く存在であるべきだ。JA自ら積極的に活動し、さまざまな人々や組織に行動を呼びかける。IYCやJA全国大会はその大きな契機になる。
(聞き手・岡信吾)
JAの原点は組合員との対話だ。さまざまな機会で組合員に出向き、直接言葉を交わしてほしい。
JAの事業利用の減少やJAと地域の関係の希薄化が叫ばれている。JA自らその理由を考え、JAの存在意義を再認識して事業運営していくことが大切だ。特定の事業に重点を置くのではなく、組合員が求めるものを幅広く捉え、総合事業の強みを最大限に生かしていかなければならない。
女性組織はこれまで、「国消国産」や地産地消につながる料理教室や食農教育などを展開してきた。これに加え、これからは消費者の関心が高まる「健康」「長寿」にも着目し、食の重要性を発信していく必要がある。
女性の正組合員の増加も重要な課題だ。助け合い活動など地域に根差した活動を増やし、組織を活性化させていきたい。女性参画はJAにとっても重要な課題。一緒に取り組んでいきたい。
JAグループでも人手不足が大きな課題となっている。組合員とJA組織が同じ方向を向くために、デジタル化で人手不足を補い、職員が組合員と対話を深められる体制を整えることが欠かせない。
JAグループは、国民の食と農を支える役割がある。消費者理解や価格転嫁などは農家の力だけでは実現できない。消費者の声、農家・組合員の声を拾い上げ、しっかりと国に伝えてほしい。
青年組織もJAの組織運営を学び、意義をJAへ伝えていく。互いの理解を深めることが、組合員とJAとの接点強化につながる。青年組織がJA運営へ参画し、JAが目指す方向を理解し、共に歩んでいかなければならない。
JA全青協は70周年を迎えた。少子高齢化が進み、若手農業者も減少しているが、これまでの熱量を維持し、70年分以上の活動に取り組みたい。JAには将来への投資と考え、青年組織の後押しを期待したい。