日本農業新聞の1面コラム「四季」を朗読と音楽でつづるスプリング・コンサートが5日、東京都内の音楽の友ホールで開かれた。俳優の永島敏行さんの朗読と、ピアニストの藤波結花さんの音楽が紡ぐ食や農、命の物語に、全国から集まった愛読者ら約190人が酔いしれた。
東日本大震災の追悼コンサートを開いた藤波さんをコラムで紹介したことをきっかけに、「芸能界きっての愛読者」を自認する永島さんとコンビを組んだ。昨年11月の初コンサートに続き2回目。
当日は、鮮やかな「陽光桜」が愛媛県東温市から、牛乳パックで作られた灯籠が秋田県大仙市から届き、幻想的な舞台を演出した。
永島さんの朗読に合わせ、ピアニストの藤波さんが「人生の扉」「パリは燃えているか」「アベ・マリア」「さくら」など14曲を披露した。曲の合間にはコラムに紹介された農家らが、自身の思いを語った。

農産物直売所のコラムでは、野菜や果物を「この子」と呼んで愛情を注ぐ大学生の武市愛夢さん(21)を紹介した。武市さんは、「進路に悩んでいた時に思い出したのは、岐阜のおばあちゃんの家の朝取れ野菜や米。食を手作りするのは楽しくてクリエイティブと気付き東京農大に進んだ。今は援農したりビル屋上の農園を運営したりするなど楽しんでいる」と語った。
原子力発電所事故による乳牛の殺処分を描いた紙芝居をコラムで紹介されたのは、福島市から福島県浪江町に通って農業を続ける石井絹江さん(73)。「25頭の牛と一緒にいたいと夫は言ったのに……大半の牛は殺処分された。その話を紙芝居にしてもらい、全国で伝えている。牛も家族という思いを絶やしてはいけない。仮設住宅暮らしの頃、母からかぼちゃまんじゅう作りを教わり販売を始め、今では全国から注文が来る。これからも前を向いて歩いていきたい」と涙ながらに話し、会場からもすすり泣く声が聞かれた。

能登半島地震の経験をコラムで紹介された石川県珠洲市の本鍛治千修さん(72)は、農業をしながら、地べたと遊ぶ“地遊人(じゆうじん)”を自称する。「地震、大雨のダブルパンチで破壊しつくされた地べたを元に戻そうと取り組んでいる。お金の支援があっても人がいないと復興できない。里山を支える一人になりたい」と話して、会場の共感を誘った。
愛読者からも話を聞いた。
キュウリ農家からの「卒農」をコラムで紹介した茨城県小美玉市の山口和弘さん(73)は「日本農業新聞を読み続けて50年、まずは四季に目を通す。減反政策以来ずっと農業の危機だったが、今はそれを通り越して危篤状態に陥っている。私も卒農はしたけど、何らかの力になりたい」。
幼稚園で給食の残さをコンポストにして、微生物発電もして子どもたちに自然の力を教えている東京都目黒区の菖蒲谷啓子さん(54)は「生きる中で食は大事と伝えたい。日本農業新聞電子版を電車の中で読んでいる。食を通して子どもたちの将来に何かしら影響を与えられたら」と語った。
山口県長門市から家族で参加した進藤正子さん(76)は「『四季』の書き写しをこれからも続け、年を取っても何回も何回も読み返したい」と思いを込めた。

秋田県横手市十文字で、大学時代の野球部仲間の米作りをお手伝いしています。農家と話をして、農業は第1次産業だけでなく、みんなで考える食べ物の問題とつくづく思います。「四季」を消費者も読めば、農業をもっと理解してもらえるはず。それも日本農業新聞の使命ではないでしょうか。
東日本大震災の追悼コンサートを宮城県気仙沼市の稲作農家の佐藤誠悦さんと開き、「四季」で取り上げていただいたことからコンサートを開くことができました。「四季」は一つ一つの言葉が輝いて、その言葉と音楽が融合することで、いろんな世界が広がります。さまざまなご縁に感謝です。
会場は関東、東北、中国四国などからの愛読者で埋まり、さまざな感想が寄せられた。
●福島県(70代) 農業は伝え方が下手と思っていた。コラムを音楽の融合で楽しく伝えるコンサートはさすが。経済優先の中で忘れがちな農の大切さを気付いてもらう機会をつくり続けてほしい。
●愛媛県(80代) いろんなコンサートの中で、今回が一番良かった。農業の誇りを伝えようという気持ちが伝わってきたからかな。不思議で素晴らしい時間だった。
●埼玉県(50代) 牛の殺処分の話はニュースで聞いていたけれど、実際に体験した人の話に胸を打たれた。小学校などで子どもたちに聞かせてほしい。
●東京都(50代) 舞台のライトが消え、灯籠の光だけで「パリは燃えているか」のピアノ演奏になった時、戦時中のヨーロッパで文化を守る運動と今回の朗読の話が重なって胸を打たれた。
●東京都(70代) 舞台に飾られた「陽光桜」をこの日のために準備した裏話を聞けて感激した。福祉施設の子らが花を摘んでくれたことなどを聞くと重みが違う。
●福島県(20代) 初めて体験する新しい形のコンサートは新鮮。農家さんの話も良かった。
●神奈川県(70代) コンサート全体がおもてなしの心にあふれていた。音楽と言葉の間合いも素晴らしく、何度も練習したことが伝わった。
●神奈川県(50代) 農家さんの思いを知って、毎日飲む牛乳のありがたさを感じた。


「四季百選2024」販売中
コラム担当の論説委員が2024年の掲載分から100本を選んで冊子「四季百選2024」となりました。「楽天ブックス」公式サイトから購入できます。QRコードを読み取り、必要事項を入力してください。
B6判、800円(税・送料込み)。問い合わせは日本農業新聞企画統括部、(電)03(6281)5803、ファクス03(6281)5497。
