どのくらいお金がなかったかというと……僕はトイレットペーパーを食べていたんです。トイレットペーパーを巻いて、はさみで3~5ミリ幅くらいに切るんですね。それを伸ばすとパスタっぽくなるじゃないですか。マヨネーズをかけて食べていました。
ちなみにティッシュペーパーは、食べようと口の中に入れると固まってしまいます。それに対してトイレットペーパーは口の中で溶ける。水に溶けるようにできているからですね。これは両方食べた経験から分かったことです(笑)。
トイレットペーパー・パスタだけだと飽きてしまうので、雑草も食べていました。バケツに水を満たして、採ってきた雑草を入れ、太陽の下に置くんですね。2回か3回ほど水を替えて数時間もすると雑草のあくが抜け、サラダになります。
できるだけ低予算で満腹にならないといけません。一番安上がりなのは、水を飲むこと。でもある程度飲むと、もう飲みたくなくなるんですね。どうにかして飲みたくなるようにしようと考えました。
そこで目を付けたのが、めちゃくちゃ辛いスナック菓子。真っ赤な色をしていて、それを食べると嫌でも水を飲みたくなる。スナック菓子も胃の中で膨張してパンパンになって、おなかがいっぱいになりました。このスナック菓子はたった1ドルでしたが、大きな袋に入っていたんです。それを3等分、4等分して食べ、水をがんがん飲みました。
そういうことばかりやっていたのですが、月に1回は、本当に自分が食べたいものを食べようと決めていました。それは、ロサンゼルスにあった日系チェーン店の牛丼です。
その店で僕は、めちゃくちゃおいしそうに食べていたらしいんです。店員さんが、すごくうれしそうに食べていると喜んで、コーラの大をプレゼントしてくれました。「ありがとう。ありがとう」と言って飲んだら、その次からは並盛り牛丼を頼んだのに店員さんが大盛りにしてくれ、コーラの大も付けてくれました。
牛丼を食べている間は、僕にとって「生きている」ということを実感する時間。感動したのは、お米のおいしさです。甘味のみならず、栄養も感じ取れました。
ご飯の一粒一粒の味や質が、口の中で分かるんですよ。一粒一粒の糖度が微妙に違うと感じました。砂漠で喉が乾ききっている時に、数十メートル先で水がポタっと落ちる音が聞こえるみたいな感じなんでしょうね。そのくらい、ご飯のおいしさに敏感になっていました。
僕は「人」というものにすごく興味があったので、どうしても米国で心理学を学びたいと思ったんです。母子家庭に育ち、母は必死に頑張ってくれました。留学の費用も、ギリギリだったんです。授業は英語ですから、他の人よりも時間がずっとかかり勉強は大変でした。でも成し遂げたい目標があったので、つらい生活にも耐えられたのでしょう。今思うと、削るべきじゃない部分のお金を削っていたわけですが。
面白いことに、大人になりそれなりにお金に困らぬようになっても、たまに牛丼を食べたくなるんです。高級店の高い肉で作る牛丼ではなく、あのチェーン店の牛丼を。
それを食べると、不思議なもので涙が出てきます。大学生活から30年もたったのに。食というのは、生命活動の本当の原点です。自分の命を守ってくれたもの。自分を育ててくれたもの。それに対する恩と感謝。その涙だと思います。
つぼた・のぶたか 学習塾・坪田塾の塾長として生徒を指導する教育者であると同時に、IT企業などを創業した起業家でもある。心理学を駆使した学習指導法を用い、短期間で急激に成績を上げることに定評がある。これまでに1300人以上の子どもたちを個別指導してきた。著書「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(通称=ビリギャル)はベストセラーに。