[論説]フリマアプリに違法苗 取引防ぐ仕組み整備を
フリマアプリは、スマートフォンを介し個人間でさまざまな物を売買できる。利用者が急増し、農産物の販売に使う農家も多い。日本農業新聞「農家の特報班」の取材では、「べにはるか」や「シルクスイート」などサツマイモの登録品種の苗が無数に出品されていることが分かった。
だが種苗法で、登録品種を増殖した苗を販売するには育成者の許諾が必要となる。一方、フリマアプリに出品されている苗には、許諾を得ていると書かれたものがほとんどない。登録品種の苗を販売する際には、品種名や登録品種であることの表示義務もあるが、多くは守られていない。
ある出品者は、登録品種を自ら増殖したとみられる苗を1カ月間に300点販売し、80万円を売り上げていた。許諾のない苗の販売が横行すれば、種苗会社による品種開発や、許諾を得て正規に苗を販売する業者の経営に支障が出る可能性がある。その場合、悪影響を受けるのは農家だ。
サツマイモ基腐病など、病害の拡大につながりかねないことも問題だ。同病は感染苗を通じても広がるため、主産地では、来歴が分かり、病原菌に感染していないウイルスフリー苗の利用を求める。だがフリマアプリ上の苗は、誰がどのように生産したか、出品者の説明に頼るしかない。
農水省は、フリマアプリでこうした苗を購入するのは農家ではなく、家庭菜園の愛好者とみている。しかし、家庭菜園から農家の畑に病害が広がる恐れもある。同省は「フリマアプリで苗は買わないでほしい」と呼びかける。当然だ。農家以外にも、リスクの周知を徹底する必要がある。
登録品種を増殖したとみられる苗の出品者は、農家を名乗っている場合が多い。種苗法違反や病害のリスクを知らない可能性があるが、農家には、こうした苗を買わないことはもちろん、売らないことも求められる。同法に違反した場合、懲役や罰金を科される可能性もある。
フリマアプリでは、ブドウや花きなどでも無許可とみられる苗の出品が散見される。法律違反の恐れがある苗が公然と取引されており、運営会社の責任も指摘せざるを得ない。出品禁止の明示、許諾の確認、違反が疑われる苗の取り締まり強化など、対策できることは数多い。アプリが不正と病害の温床とならないよう、仕組みを整備すべきだ。