
みなべ町で梅を5ヘクタール栽培する中本憲明さん(55)が繰り返す。目線の先にあるのは、ひょうで種が見えるほど果肉をえぐられた梅の実。20歳で就農してから35年間、日本一の産地の一員として高品質な梅を作り続けた。昨年も不作に苦しんだが「こんなにやられたのは初めて。今は梅を見るのも辛い」と話す。
園地があるのは、特に被害が甚大だった山内地区。14日の午後6時半ごろに降った大粒のひょうが当たり、5ヘクタールの園地全域で傷果や落果の被害があった。中本さんは「傷のない実を探すほうが難しい」と嘆く。青梅の出荷は断念し、加工用に仕向けるというが「傷がひどく、梅の形を残して加工されるのは難しいのでは」と話す。
同町熊岡の梅農家・団栗義浩さん(37)も園地2・7ヘクタール全体がひょう害に見舞われた。特に被害が大きかったのが、14日の降ひょう。「暗いというより“黒い”雲が空を覆ったかと思えば、大粒のひょうが降ってきた」と振り返る。収穫期には地面に敷くシートで園地が青色に染まる同町。団栗さんの知人農家の中には、叩き落とされた果実や葉が地面を覆いつくし、本来の青色が見えなくなった園地もあるという。

団栗さんが収穫した梅の大半は「白干し梅」と呼ばれる状態まで1次加工して出荷する。しかし今年は正品率が低く、「1次加工にかかる人件費などを考えると、利益が出るかは分からない」。
被害は田辺市にも及んだ。同市の中芳養や上三栖、上野で梅1・5ヘクタールを栽培する隣茂之さん(44)も全ての園地が14日の降ひょうで被害を受けた。不作とひょう害で収量が平年の6割に落ち込んだ昨年をやっとの思いで乗り越え、「今年こそは」と期待した矢先の被害だった。「イノシシや鹿と違って、空から来るものは防ぎようがない」と落胆する。
2年続けての不作を受けて隣さんが気にかけるのは消費者の反応だ。「売り場に紀州の梅が並ばなくなれば手が離れてしまうのではないか」と心配する。
(郡司凜太郎)