[論説]老朽化進む水利施設 事故、災害の対策急げ
農水省によると、2021年度の農業水利施設の突発事故は1332件に上る。事故の原因は、施設の劣化が1197件と全体の9割を占める。昨年5月、田植えの時期に起こった愛知県の明治用水頭首工の大規模漏水事故も、老朽化が原因の一つとされている。
台風による豪雨や地盤沈下など、経年劣化以外の突発事故は135件。ため池の築堤が崩れたり、水路に土砂が流入したりするなど、各地で農業水利施設の被害が相次いだ。今年8月、台風7号が上陸した鳥取県では714カ所で水路の閉塞(へいそく)などが発生。ため池1カ所の堤が崩落し、頭首工の破損や埋没などは58カ所、揚水機の被害は2カ所で確認された。兵庫県などでもため池や水路、頭首工に被害が出た。
高度経済成長期に整備が進んだ農業水利施設の老朽化は進む一方だ。受益面積100ヘクタール以上の基幹的農業水利施設は、毎年400~500施設が標準耐用年数を超過、7700カ所ある基幹的農業水利施設の56%、5万キロに上る基幹的水路の45%に及ぶ(21年度末時点)。こうした農業水利施設を放置すれば漏水や決壊だけでなく、人を巻き込む重大事故につながる危険が高くなる。11年の東日本大震災、18年の西日本豪雨では、ため池が決壊し死者が出た。
迅速な対策を取らねば、こうした事故が増えてしまう。
農水省は、施設全体の中長期的な状態を把握し、劣化に応じて補修や補強などを行って更新時期を延ばす「ストックマネジメント」への転換を推進する。防災面では20年に閣議決定した「防災・減災・国土強靭(きょうじん)化のための5か年加速化対策」に基づき、施設の整備に加えて水田の貯水機能の向上、防災用重点農業用ため池の指定と工事、豪雨・地震対策などに取り組む。ため池の決壊などを想定したハザードマップの作成や地域住民への啓発活動など、ソフト面からの対策に取り組むことも掲げる。
岸田政権は、主要政策の一つとして「防災・減災、国土強靱化の推進」を挙げる。農地の隅々に水を供給する水利施設は、農業に欠かすことのできない重要なインフラだ。
激しさを増す災害にも強く、長く、安全に使い続けるためには国の支援は重要だ。農業の生産基盤はもろくなっている。地域全体で補修し、災害に備えて対策を進めよう。