[論説]米の輸出拡大 長期的視野で基盤強く
農水省が公表した2023年1~9月の輸出額は約66億円、数量は約2万6000トンで、共に過去最高だった前年同期と比べて3割増のペースで推移する。主要市場となる香港やシンガポール、台湾などでは、日本食レストラン向けが好調。最近はカナダを含む北米向けも伸びが大きい。
国内の米需要量は毎年10万トンペースで減り続け、22年に700万トンを割った。1人当たりの年間消費量も50・9キロと過去50年で半減、需要減は加速する。産地は需給均衡へ主食用から飼料用などへの切り替えを進めるが、転作を支える水田活用直接支払交付金への財政負担を財務省が問題視するなど課題を抱える。
停滞感を打破しようと産地や業界は輸出に活路を見いだす。ただ、国産米需要のうち輸出用は1%に満たない。世界の米消費は長粒種が中心で、日本産がどこまで販路を広げられるか、不透明だった。
風向きが変わったのは昨年から。日本産と競合する中粒・短粒種の多い米国・カリフォルニア米が、干ばつや物価高の影響で高止まりする一方、日本産は円安で値頃感が出て、価格が逆転する例も出てきた。米国に加え、カナダでも日本産への切り替えが急速に進んでいる。米国農務省によると、23年産のカリフォルニア州の米生産量は、干ばつの影響を受けた22年産までと比べて大きく回復する見込み。だが、現地では物価や人件費などの上昇で、米の高値傾向は今後も続く可能性がある。
日本の和食文化に対する評価は高まる一方だ。海外の日本食レストランの数は約19万店(23年)と、ここ2年で2割近く増えた。回転ずしチェーンが進出する他、おにぎりなどのテイクアウトも人気で、消費の裾野は広がる。
農水省は米やパックご飯、米粉・米粉製品を輸出の重点品目とし、25年の輸出額目標を19年比2・4倍の125億円に掲げる。ただ、目標額達成を追求するとしても、稲作経営にプラスにならなければ意味がない。問われるのはその「中身」である。
農家の高齢化や担い手不足が課題となる中、農地や米作りを維持することは有事の際のカロリー源となり、不作時は国内に振り向けられ、食料安全保障につながる。そのためには国内の稲作を守り、生産基盤を維持・強化することが不可欠となる。