[論説]24年農村の展望 「関係人口」が未来開く
都市と地方。双方の関係は、これまで“対立軸”として見られてきた傾向にある。生産者と消費者も同様で、分断されていたつながりを再び構築する2024年としたい。こうした使命感の下、自らの企業「雨風太陽」を上場させたのが、関係人口を提唱する高橋博之代表だ。
関係人口という言葉は、東日本大震災を契機に生まれた。縁もゆかりもない大勢の人が東北を訪れ、復興を手伝った。その存在は被災地の人々を勇気づけ、復興の大きな後押しとなった。これは能登半島地震の復旧、復興にも当てはまる。被災地に思いをはせ、自分ができる関わり方を模索することが、地域の再生につながっていく。
地方と関わる選択肢は、これまで出張や観光、移住・定住が中心だったが、関係人口という言葉が市民権を得た意義は大きい。移住する、しないの二元論で都市住民と関わり、移住者の“争奪戦”を繰り広げれば、やがて地方は疲弊する。ゆるやかな関係人口は、農村の新たな担い手、助っ人の育成につながる。
一方で、「関係人口=農村の活性化」と捉えがちだが、それは違う。都市にとって農村との関わりは、大きな恵みとなる。生きづらい時代の新たな居場所となり得るし、自然や人の温かさなど、農村の豊かさに触れることは日々の活力源となる。
自然災害が頻発する中で、自宅以外に食や住まいの拠点があることは、暮らしの安全保障にもなる。都市住民にとってハードルが高い移住ではなくても、受け入れられ、関わることができる地域の存在価値は大きい。関わり方も地場産の購入や水路の維持、農作業の手伝いなど多様だ。
ただ、都市住民が混ざることで、地域に“さざ波”が立つこともあるだろう。互いに環境が違う者同士が関わり合うには、歩み寄る姿勢も欠かせない。努力を重ねる必要もある。幾多の波を越えたとき、地方の未来は開ける。
国土交通省が9日に示した、移住や二地域居住に関する専門委員会の中間とりまとめでは、法改正も視野に移住者住宅などの財政支援をする方向性や、行政と民間で協議会を立ち上げることが示された。協議会の参加組織にはJAも想定されている。
組織内の男性だけなく女性や若者、移住者ら多様な立場の人とつながることが、農村の可能性を広げる。