[論説]存続危うい農業集落 政府挙げててこ入れ急げ
農業集落は、農道や用水路の維持や、日々の暮らしに関わる社会生活の基礎的な単位となる。全国14万弱の農業集落が農村を支えてきた。
しかし、少子高齢化で人口減は加速し、集落の未来を揺るがす。人口が9人以下で高齢化率が50%以上になれば、農地保全を含むコミュニティーの機能は低下し、集落の存続が危うくなる。
こうした「存続危惧集落」は、農林水産政策研究所の試算では、2045年には約1万に上り、15年の4倍に達する。集落世帯員の3分の2以上が、65歳以上となる「超高齢化集落」は同7倍近い2万7100まで急増。子供のいない集落は、同3倍以上の3万に増えると推測する。
「存続危惧集落」が有する農地面積は約20万ヘクタールに上る。中山間地域で多い。50年には、さらに増える見通しで、集落の弱体化は食料自給率の低下を招き、農業の多面的機能や食料安全保障を危うくさせる。農村の衰退は、都市住民の暮らしにも影響を及ぼす。
農業集落があることで地域に雇用を生み出し、生活を維持するインフラや医療・福祉、教育施設も整う。集落の維持に向けて政府は省庁間の壁を越えて連携を強め、地方自治体も含めて農村の振興策を急がなければならない。
20年に策定した食料・農業・農村基本計画では、農水省が中心となって、農村政策を総合的に進める仕組みづくりを構築するとした。だが、農村型地域運営組織(RMO)の形成や、デジタル化を推進する「デジ活」中山間地域などで連携は始まったものの、力不足は否めない。
食料・農業・農村基本法の見直しを進めてきた農水省の審議会は、ウクライナ危機を発端とした食料安全保障の強化に議論が集中し、肝心の農村政策の評価や検証は不十分なままに終わった。
これからでも遅くはない。農村をどうするのか。農水省がリーダーシップを取るべきである。使命感を持って取り組んでほしい。
中山間地域フォーラムの野中和雄副会長は、「農村をどのように位置付けるかを国民の視点から議論し、地域の所得と雇用の機会が確保され、農村のコミュニティー機能が維持強化されるよう、政策の抜本的な見直しが必要だ」と主張する。同感である。
通常国会で基本法改正案の審議が始まる。東京一極集中から地方分散の時代へ。残された時間は多くない。