[論説]時代は医食“農”源 健康な土を地域の宝に
医療技術が進む一方、がんをはじめ生活習慣病、アレルギー疾患、うつなどの病気は減らず、食を通した病気にならない健康な体づくりが求められている。土と人間、地球の健康はつながっており、全体を俯瞰(ふかん)して最適にする、こうした考え方を「プラネタリーヘルス」という。
提唱するのは、医師で東京大学大学院研究員の桐村里紗さん。実証を進めようと2022年、人口減が進む鳥取県江府町と協定を締結した。同町に拠点を移し、水や土との触れ合いを通して病気にならない町づくりを進める。
今月3日には医療や食、農業の関係者が集まり、都内でプラネタリーヘルスについてのシンポジウムが開かれた。主催したのは医薬業界でつくる日本ヘルスケア協会。同協会には野菜や米、土壌の健康を推進する部会まである。
底流にあるのが「土から離れれば離れるほど、人は病気になりやすい。全ての病気は腸から始まる」(田中クリニック・田中善院長)という考え方だ。健康な土づくりを通して「医食農源」の考え方が広がることで、農の価値が見直されることを期待したい。
桐村さんは、都市と農村が対立するのではなく有機的につながり、循環していくことが重要という。その大本となるのが、気候変動や病気に負けない作物を育む健康な土づくりにある。土の中にいかに多くの種類の微生物がいるかが、ポイントとなる。
立正大学地球環境科学部の横山和成特任教授は、土の豊かさが一目で分かる「土壌微生物多様性・活性値」を測定する技術を確立した。「先祖代々の日本の土には、世界の土より多様な微生物がいる。次の世代に引き継がないのはもったいない」と指摘する。
有機物の投入によって、多様な微生物が生きられる豊かな土ができ、その土でできた作物を食べた人の腸が元気になり、健康づくりに貢献する。豊かな土が農村の宝となり、その土を求めて都会から人がやってくる──。そんな好循環を生み出したい。
埼玉県小川町では、町の資源を活用し、循環型の有機農業に取り組む農家を「OGAWA’N Nature(おがわんネイチャー)」として認定し、応援している。
高齢化が進み、医療費が増大する中で、国民の健康は日本の土が支える。そんな機運を盛り上げよう。