[論説]「国消国産」運動の推進 農業の今考える契機に
ロシアによるウクライナ侵攻から2年が過ぎ、肥料や飼料など生産資材の高騰による農家の苦境を、報道などで見聞きする場面は増えた。加工食品をはじめ、鳥インフルエンザに伴う卵の価格上昇などは、輸入に依存する食の実態をあぶり出した。食料安全保障への理解を広げるきっかけになっただろう。
ただ、食料の安定供給について国民はどう思っているのだろうか。農林中央金庫の調査では、消費者の8割が「農業に課題がある」と回答した一方、国産農産物・食材の供給・生産の未来を「不安」と回答したのは2割にとどまった。「現時点で不安になるような支障が生じていない」というのが主な理由だ。
しかし、将来に目を向ければ不安要素ばかりだ。人口減少が深刻化する日本とは対照的に、世界の人口は増加する。食料争奪が激化する中で、日本の購買力は弱まっており、輸入農産物・生産資材の安定的な確保が将来にわたって可能なのか、黄信号がともる。今こそ国内の農業生産の維持、強化が欠かせない。国民全体で国産の農畜産物を買い支え、食べ支えることが重要だ。こうした理解を深めるための取り組みは、道半ばだ。
持続可能な農業の実現に必要なのが、コストを適正に反映した価格の形成だ。生産費の高止まりは長期化しているが、農畜産物の価格には十分に反映されていない。価格形成を支える法制度の道筋がいまだ不透明な中で、生産現場では離農が相次いでいる。
トラック運転手の労働時間規制が強まり、輸送力が不足する「物流2024年問題」も、農業にとって大きなハードルとなる。運転手の荷待ち、荷役時間の削減対策などで経費は増え、運転手確保の鍵となる待遇改善へ運賃値上げを求める声も強まるだろう。こうした物流コストを、苦境にある産地だけに押しつけていいのか。今こそ農畜産物価格に適切に反映し、農業所得を下支えする必要がある。
食料品の値上げが家計を圧迫する中で、価格転嫁に理解を得るのは容易ではない。だからこそ、日本の農業が、未来を生きる子どもたちの食の安全・安心を支えていることを訴え、理解を得る努力を重ねる必要がある。「国消国産」の運動方針で、子育て層や若年層を重視した意味はそこにある。JAグループ挙げて国民理解につなげよう。