秋の熊対策 生活圏への接近防ごう
環境省によると、北海道から中国地方までの熊の人身被害者数は2020年度が158人、19年度が157人だった。それまでの10年間、150人を超えることはなかった。作業の準備中に農道で、急に現れた熊にかみつかれた農家もいた。現場は、民家も立ち並ぶ平たんな水田地帯。中山間地域や山際でなくとも、警戒が必要な状況だ。
21年度も7月末までに37人が被害に遭った。秋に大量出没した昨年と同様、今年もその懸念がある。昨年10月の出没は4208件で、1年の中で最多だった。その要因の一つが、冬眠に入る前の熊の餌となるドングリ(堅果類)の凶作。環境省によると、20年度はブナが19道県で凶作だった。餌を求めて熊が人の生活圏に入ったとみられる。
21年度のドングリの全国の豊凶は環境省が取りまとめ中だが、調査結果を県単位で公表している新潟県は8月時点の速報として、山奥に分布するブナやミズナラは凶作から不作と見込む。熊の生息域で餌が不足し「人里近くに出没する可能性が高い」と予測する。同県の20年度の人身被害者数は21人。岩手県の29人に次ぐ全国2番目の多さで、今秋も警戒感は強い。
政府は4月、冬眠明けの熊への対応を想定し、環境省の熊出没対応マニュアルを都道府県を通じて市町村に周知することなどを行った。秋に向けても対策を推進、徹底すべきだ。今からでも、自治体や地域でできることは多い。
マニュアルは、熊の出没と被害を減らす対策をまとめた。人の生活圏に近づけないように、誘い入れる恐れのある物やその管理方法を例示。餌となる落下果実や野菜くずの回収、家畜飼料の屋内保管などを挙げる。山際の草を刈って隠れる場所をなくすといった緩衝帯の設定や、耕作放棄地の整備なども求める。追い払いや捕獲など出没時の対応と留意点も説明。各地の実践事例も取り上げている。
熊の出没に備えた地域の体制づくりも大切だ。行政や自治会、猟友会など関係者の役割を明確化し、連絡体制を構築する必要がある。一連の対策をとっている地域も、点検しておくことが重要だ。
こうした対策の実践には地域住民の力が欠かせない。ただ体制やノウハウが不十分な地域もある。政府と自治体が連携し、取り組みを促してもらいたい。各地域には、今秋に限らず、対策を継続できる体制づくりが求められる。