大型連休中は、関係者一体となって処理できない生乳が発生しないよう対応したが、「6月上旬にかけて増産となり、今後も予断を許せない」と関係者はみる。
北海道東部の酪農家は「汗ではなく血が出る思いで毎日牛舎に向かっている」と悲痛な思いを明かす。国の畜産クラスター事業で規模拡大を進め、牛舎などの設備投資への返済が残っている。それにもかかわらず、生乳増産を抑えなくてはならず、経費の大幅な上昇で限界を感じているという。別の酪農家も「需給緩和は誰の責任でもないが、しわ寄せは北海道にくる。このままでは生産基盤は維持できない」と苦悩する。
北海道以外でも、資材が高騰し、牛乳の消費低迷で苦境が続く状況は変わらない。コロナ禍による需給緩和を踏まえて本年度は、業界団体のJミルクなどが基金を創設し、全国で協調して脱脂粉乳を餌などに回し、在庫を解消する対策を進めるが、こうした短期的な対策だけでなく、中長期的な支援も必要だ。
円安に伴うナチュラルチーズの輸入価格上昇を踏まえた国産チーズへの支援や、資材高騰を踏まえた加工原料乳生産者補給金の対応など、政府が主導すべきことは多い。
求めたいのは、生乳の需給調整の在り方を検証し、対策を打つことだ。需給が緩和されるたびに離農は相次ぐ。これ以上、地域を支える生産基盤を衰退させてはならない。酪農の未来を見据え、持続可能な生産体制を構築する必要がある。コロナ禍のような突発的な事態が起こっても、需給調整が安定的に機能していることが重要だ。
北海道では需給緩和に伴う増産抑制を機に、指定団体以外に生乳を出荷する農家が増えている。ただ、系統外も販売が厳しいのは同じだ。系統外に出荷する農家からは「安く売らざるを得ない」との声も上がる。需給調整機能や価格形成の仕組みを再考するとともに、生乳流通の自由化を促す改正畜安法について検証する必要がある。
国内では乳製品の過剰在庫が課題になっている一方、世界では乳製品の価格高騰が加速している。円安の進行で脱脂粉乳の輸入価格が国産を上回る逆転現象もみられる。
国内の酪農基盤が衰退すれば、国民の命と健康を支える食料安全保障の危機につながる。中長期的な視点に立って打開策を検討すべきだ。
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