[参院選]企業の農地取得 食料安保論議踏まえよ
企業の農地取得について政府内の動きは、「2面作戦」で行われている。規制改革推進会議と国家戦略特区諮問会議だ。両会議とも、規制緩和に前のめりな議論が目立つ。
規制改革推進会議は、農地所有適格法人の資金調達をしやすくするため、企業が出資できる制限の緩和を求めている。同法人は農地を所有できるため、農地法では農業関係者以外の出資割合を半分未満に制限している。
出資規制の緩和は、農外資本や外国資本による農地取得につながり、転用される恐れもある。実際、中国やフランスなどの外資系企業が出資する農地所有適格法人の農地は国内で約66ヘクタールに達し、限度ぎりぎりまで出資するケースもある。与党や農業関係者の警戒感が高まっている。
一方、国家戦略特区諮問会議は、兵庫県養父市の特区で試行している、株式会社の農地取得の全国拡大を目指す。企業の農地取得はほとんど増えていないことが判明したが、同市の広瀬栄市長や特区ワーキンググループの委員らは全国展開を主張している。
これらの議論を踏まえ、政府は7日、岸田政権初の規制改革実施計画を閣議決定した。農地所有適格法人の出資規制緩和では、与党などからの異論を踏まえ、菅前政権の規制改革実施計画で「22年に措置する」としていた期限を削除したが、「速やかに措置する」との記述を残した。
国家戦略特区とも連携するため、企業による農地取得の項目も盛り込んだ。来年の通常国会での特区法改正に向けた議論が焦点となる。国家戦略特区諮問会議などでは非公開の会議もあり、国民は“かやの外”に置かれていることも懸念材料だ。
岸田首相は、昨年の自民党総裁選で、現場の実態を十分に把握しない規制緩和や構造改革一辺倒の農政を見直す考えを示した。だが、改組するとした規制改革推進会議は作業グループの名称を変えただけで、メンバーもテーマもほぼ同じ。国家戦略特区諮問会議も、企業による農地取得の全国展開を求めていた竹中平蔵氏ら民間議員は3月に交代したが、後任に同様の考え方の人物が就いた。
ウクライナ危機で食料安保の確立が問われる中、基盤となる農地をこれ以上減らすわけにはいかない。農地の担い手は誰か。岸田政権はどう応えるのか。参院選を通じ、国民的議論が重要となっている。