移住者ひきつける「脅し文句」
19日、急峻(きゅうしゅん)な山道を登って水田が広がる盆地の天野地区にたどり着くと、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の中にある丹生都比売(にうつひめ)神社が目の前に現れた。
「景色が良いし、米も野菜もうまい。ぜいたくな暮らしですよ」。移住者支援を担う「天野の里づくりの会」会長の谷口千明さん(75)がほほ笑んだ。右手には「田舎ぐらしの7カ条」。地区内の施設で地域住民と移住希望者とが相互理解を深める話し合いが始まった。
大阪府和泉市在住の釜下栄治郎さん(54)、智恵子さん(53)夫妻は4月にドライブで訪れた地区の景色にほれ込み、移住相談に訪れていた。「7カ条」を読んで「地域のありのままを伝える姿勢にむしろ安心した」と語り、「家庭菜園でブルーベリーを育てたい」と未来像を語った。
谷口さんは地区内の空き家を紹介しながら「まずは住居を決め、面談を5、6回重ねながら移住計画を具体化していく。農地探しも手伝いたい」とうれしそうだ。
地区西側の山間部に養蜂場があった。周囲には栗林があり、花から蜜を運ぶミツバチが舞っていた。経営者の永田元氣さん(33)は大阪の元サラリーマン。3年前、地区にある築70年の空き家をリフォームし、家族3人で移り住んだ。移住後に娘も生まれた。
決め手は「自然に囲まれた子育てしやすい自由な環境」だった。田舎暮らしのリアルをストレートに記した「7カ条」全てについて、「これこそ田舎の常識」と笑顔を見せる。地域の草刈りも毎年欠かさず参加している。
「以上、この7カ条が理解できれば、あなたは田舎ぐらしの達人です」。条文の最後にそうつづられた言葉の意味が、ふに落ちた。
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