「体毛にブラシをかけると牛がうれしそうな顔をする。ゲームでも同じような体験ができるけど、リアルで目の当たりにするとまた、やりがいも大きいですね」
乳牛100頭がひしめく牛舎で、有平さんがそう笑う。妻の悠未さん(29)と共に毎日、牛の世話に励む。
「牧場物語」との出合いは「小学校入学前後」と有平さん。兄の影響で遊ぶようになった。ブラシをかけると牛の表情が変わったり、搾った生乳からバターやチーズを作ったりする仕掛けは、実家が農家ではない有平さんにとって「初めての経験」だった。ゲームの画面上とはいえ、全てが新鮮に映った。
毎日のようにゲーム機を握り、プレーを続けるうちに「本物の牛にも触れたい」と興味がわいた。やがて「酪農家になりたい」と志すようになった。
自身の夢をかなえるため、高校は島根県内の農業高校に入学。大学は北海道の酪農学園大学に進んだ。将来を模索する中、別海町が3年間の研修を経て就農できる体制を整えていることを知り、移住を決めた。
今年4月に第三者継承で独立。地元のJA道東あさひや近隣の酪農家から助言も受け、日々牛と向き合う。今夏の猛暑では牛の体調管理に細心の注意を払った。「ゲームのように円滑にいかないことも多い。経営はまだ初心者。一日でも長く続けたい」と決意する。
<ことば>牧場物語
「牧場での人生をまるごと楽しめる」がコンセプトのゲームで、プレーヤーが牧場主となって乳牛の世話や野菜を栽培したり、町に住む人たちと交流できたりする。1996年の初代発売以降、家庭用ゲーム機向けに30作品以上が発売されている。
担い手誕生「いいね」4500件 JA道東あさひが感謝状
JA道東あさひは、和田さんという貴重な若い酪農の担い手が地域に生まれたきっかけになったとして、「牧場物語」を制作したゲーム会社のマーベラス(東京都品川区)に感謝状を送った。同社が、これを公式X(旧ツイッター)で投稿すると、4500件超の「いいね」が付き話題を呼んだ。同社は「酪農業の発展と普及にわずかながらでも貢献でき、とてもうれしい」とコメント。JAにお礼状を送った。