

秦野は日本最大の食用桜花(八重桜)の産地で、国内市場の8割を占める。品種は花弁の大きな「関山(かんざん)」。ソメイヨシノが散った後に開花し、表丹沢の丘陵地を濃桃色に染める。温暖化が進んだ近年の開花は4月中旬だったが、今年は3月の冷え込みで本来の下旬に戻る。桜のカップケーキが出た12日、ソメイヨシノは満開で、八重桜のつぼみは固かった。
国の調査によると、神奈川県にある公立中学校の過半数は5年前まで給食がなかった。秦野市も、小学校は全校自校調理の給食だが、中学校は学校給食センターを建てた2021年12月までなかった。以来、手作りによるおいしさと安全・安心にこだわり、JAはだのと協定を結んで農産物を仕入れる。「市産割合は品目ベースで4割を超えています」。齋藤佳織センター長が誇らしげに言った。
この日は通常より早い午前7時ごろに50人の調理員がセンターに出勤し、生地作りから始めた。レシピは、市の管理栄養士、小河聖さんが給食調理員たちと試行錯誤しながら考案した。桜は、軸の付いた花弁を白梅酢と塩で40日前後漬け込んだものを使う。小麦粉など他の材料と混ぜ合わせるためミキサーにかける際、花弁を粉砕しないよう緩くかけるのがこつ。生地は荒くなるが、もちもちとした食感が増す。
コンベクションオーブン3機を各7回稼働し、3時間後、市内全9校分のカップケーキ4119個を焼き上げた。きつね色の生地に花びらがのぞき、甘さと春の香りが漂う。
近年、桜花を摘む人が高齢化し、人手も不足している。安価な中国産にも押され気味だ。桜給食は、江戸時代から続く特産品を守る取り組みでもある。