「チルしたい」にぴったり
一面に広がる海のように幻想的な青い花々──。そんなネモフィラの花畑をバックに、若者が楽しむ様子を撮影した写真を交流サイト(SNS)で目にするようになって久しい。ブレークから時間がたった今でも、人気が根強いのはなぜか。
SNSきっかけ
ネモフィラは鮮やかな青色が特徴の1年草。代表的な絶景スポットが、茨城県ひたちなか市の国営ひたち海浜公園だ。広大な「みはらしの丘」一面に平和の象徴として造られた青いネモフィラ畑が、空や海と溶け合うように見える。風景を見ようと、見頃となる4月中旬から5月上旬には毎年、多くの人が訪れる。10年前ごろの大ブレーク後に人気が定着し、2025年の大型連休は約40万人が来園した。

ブレークのきっかけはSNS。「絶景プロデューサー」の詩歩さんのフェイスブックページ「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」で紹介され、脚光を浴びた。従来の中高年やファミリー層に加え、若者の来園も増えた。「インスタグラムで短時間動画を投稿するなど、若者向け施策には引き続き注力している」(同公園広報)という。
直売所の名所に

若手農家が、ネモフィラの名所を生み出した地域もある。埼玉県北本市のJAさいたま直売所「地場物産館桜国屋」に隣接する畑だ。市農業青年会議所に所属する若手農家らが管理する。直売所の売り上げと市の訪問者増加を目的に栽培を始め、今年で7年目。見頃の時期には多くの人が訪れる。同会議所の新井剛会長らは「直売所の集客数も年々増え、従来の客層だけでなく、若い世代が野菜などを買うことも多い」と効果を実感する。「桜などよりも長く楽しめて繰り返し訪れられることや、大型連休に見頃が少しかぶることも、人気の要因となっているのではないか」とみる。
栽培面の利点もある。ネモフィラは過度な水やりや施肥を必要とせず、比較的育てやすい。咲き終わったら、緑肥としてすき込める。今後播種(はしゅ)方法を工夫するなどし、より写真映えする場所をつくることを検討する。
若者研究の第一人者で芝浦工業大学デザイン工学部の原田曜平教授によると、自然との触れ合いを楽しみ、SNSで投稿する若者が増えている。「ゆったり」を意味する若者の「チル」の価値観が、ネモフィラなどの花畑で得られる癒やしに合致するとみる。「若者は花を日常的に買って飾る機会が少なくても、花の写真を撮る頻度は圧倒的に増えている。カフェなど体験型の写真映えスポットをつくれば、さらに花に注目するのではないか」と分析する。
<取材後記>
花見といえば桜を思い浮かべるが、青く神秘的なネモフィラ畑に魅せられる若者たちは、新たな形の花見文化をつくり出しているのではないか。
SNSのプロフィル画像向けに撮影したり、アイコンの「推し」のキャラクターの縫いぐるみや、愛車と一緒に撮影したりと、さまざまな形で写真を楽しむ。スイーツや飲み物を片手に、仲間とのんびりと語らう。楽しみ方の形は変わっても、季節ごとの美しい花をめでる日本人の心は変わらないのかもしれない。
ひたち海浜公園の絶景も、SNSから一躍有名になった。農家が主導して、ネモフィラで観光名所も生まれている。今後も、ネモフィラ畑に続く新たな花見の名所が、各地に生まれる可能性を感じる。
(冨士ひとみ)
