観客席で手をたたき目頭を熱くしたのは、秋田県潟上市の吉田理正さん(76)。吉田大輝投手の祖父だ。JA秋田みなみ(現JA秋田なまはげ)に36年間勤め、退職後に梨農家となり、約50アールの園地で「幸水」「かほり」などを手がける。
思い出すのは、孫を支える日々だ。両親が共働きの吉田大輝選手のために、トスバッティングを手伝い、寂しい思いをさせまいと自宅に呼び寄せ、自慢の梨やリンゴを振る舞った。今は高齢のため練習相手はできないが、孫の負担を和らげようと、最寄り駅まで車で送迎するなど、常に近くで寄り添い続けた。
昨年は梨が不作だった。春先の低温で果樹に被害が出る凍霜害が園地を直撃、約9割の収穫を断念した。その苦しさを紛らわせてくれたのが、孫の活躍だった。今大会期間中は、高品質な梨を作る上で重要な摘果作業などに追われながらも、その合間を縫って毎試合球場に駆け付けた。
2018年に“金農旋風”を巻き起こした一人で現在はオリックスの吉田輝星投手(23)に続く孫の甲子園出場に「ここまでやるとは思わなかった。農作業やめてでも甲子園に行かにゃ駄目だ」と瞳を輝かせた。

これまでの道のりは平たんではなかった。1年時には、部内で上級生によるいじめが明らかとなり、3カ月間対外試合禁止の処分が下ったこともあった。
どん底から、はい上がっての悲願だけに「甲子園で勝利し、地方にある農業高校の野球部でも『頑張ればできるんだ』ということを、全国の農高生に証明したい」と力を込める。
