最終回の怒涛(どとう)の追い上げに、アルプス席から声をからし応援したのは、秋田県三種町の水稲農家、大山等さん(57)だ。
思い出すのは、40年前に吹いた“1度目”の「金農旋風」の記憶だ。第66回大会(1984年)で金農は、夏の甲子園初出場ながらベスト4に進出。大山さんは、「2番・三塁」として活躍した。
初戦で強豪に勝利すると、一気に波に乗った。準決勝は前年の覇者、PL学園高校(大阪)。大山さんは初回、プロ野球でも活躍した桑田真澄さん(56)を強襲する内野安打で出塁し、その後、先制のホームを踏んだ。試合は2-3で惜敗したが「桑田からヒットを打った農家は俺しかいない」と懐かしむ。
金農で6年間コーチを務めた大山さんの教え子が、吉田大輝投手(2年)の父・正樹さん(48)。その縁もあり、7回9安打5失点とエースの投球はできなかった大輝投手にも熱い視線を送った。
「最後までよく粘った。金農の雑草魂を見せてくれた、いい試合だった」と、拍手の手を止めなかった。
選手の能力を測る指標の一つがスイング速度。体重が増加すると速度が増すとされる。菅野さんは、選手が無駄なく効果的に体重増につなげるため、必要な栄養素を見極め、どれだけ、どのタイミングで体内に入れるかを指導する。
9回の猛攻の口火を切った2番の近藤暖都選手(3年)は、菅野さんの指導を受けた一人。体重が増えにくい体質のため、増量期間中は3時間ごとにタンパク質を20グラム以内摂取するよう指導を受けていた。
効果てきめんだった。昨年10月に64キロだった体重は、2カ月で7キロ増量。それに伴い、スイング速度は14キロアップし、135キロにまでなった。
得点を重ねた最終回、菅野さんは、目からこぼれ落ちる涙をハンカチで拭いながら、祈るように観戦した。「9回は球場全体が金農を応援していた。そんな場面は勝ち負けの世界でなかなか見られない光景。金農の選手たちは幸せ者です」
6年前に金農を“友情応援”した兵庫県有馬高校吹奏楽部も駆け付けた。有馬高校は農業系学科「人と自然科」を持ち、「農業」という共通項で金農から依頼を受けた。「農業魂」と書かれたTシャツをまとい、応援を盛り上げた。
高橋佳佑主将は試合終了後、涙を浮かべながら「これまで農業高校らしく泥臭くやってきた。最終回に粘りを見せられた。全国の農業関係者に9回のプレーで勇気を与えられれば」と話した。