
1メートル以上の積雪がある園地で中嶋さんがちょっぴり自慢そうに胸を張った。
「山が見渡せ農道も近い。素晴らしい園地でしょう。雪による枝折れもあるが、ここで頑張ります」
小学校からラグビーを始め、関東で指導者として活躍していた。同市にはラグビーチームを作る誘いを受け2018年に移住。暮らす中で「世界からも青森のリンゴは絶賛される」ほど宝であることを知った。
「人との交流を通じて豊かな人生を送りたいと思った。農家は長く、自分らしく仕事ができる」と思い、22年に同市に相談。6人の里親農家でトライアル研修を経て、最終的に成田さんのもとで実践研修を重ね、ラガーマンから転身した。
中嶋さんの横で、うれしそうな顔を見せる成田さん。古里の同市で、リンゴを栽培して半世紀以上のベテラン農家だ。3・3ヘクタールで「ふじ」を中心にさまざまなリンゴを育てる。これまで農業大学校の生徒ら多くの研修生を受け入れてきた。「私の人生はリンゴとともにある。豊かな経験をさせてもらった産地に恩返ししたい」との思いを抱き研修生に指導する。「否定や断定をせずに、相手の言うことを尊重する」ことがポリシーで、技術の伝承や支援はやりがいがあるという。
同市はリンゴの筆頭産地だが、出荷量も農家も減るばかりだ。だが、成田さんは「厳しい環境だが、若い人の挑戦には希望を感じる。新規就農者を見ると、弘前は今後も世界に誇れる産地であり続けられる」と確信する。
中嶋さんは同市の園地継承システムで希望に合う農地を発見。成田さんのサポートを受け、地主と農地価格で合意し、取得できた。川の水があり、トイレや農機、農作業小屋もあり、絶景が見渡せる園地1・1ヘクタールだ。
地主や周辺農家、行政、JAなど、関係者みんなが就農を応援し、支えてくれる環境がありがたいという。各地のラグビーの教え子らはさっそく「遊びに行きたい」との声が上がる。成田さんは「人が集まるリンゴ園地にしたい。90歳まで農業をするのが僕の新たな夢」と見据える。