特定地域づくり事業協同組合
担い手確保へ他業種連合
「特定地域づくり事業協同組合」は人口減少が進む地域のさまざまな産業の担い手を確保するため、2020年に議員立法で成立した。組合員は農家やJA、漁協、介護、小売店、宿など地域の事業所。繁忙期に合わせて移住者らがマルチワーカーとして正社員で雇用され、組合員に派遣される仕組みだ。派遣者の人件費や組合の事務経費を自治体や国が助成することが特徴。2024年12月時点で、111市町村に108組合が発足した。
JAや農家が出資して組合員になる組合が多く、事業所の人手不足解消になる。移住者の確保にもなり、起業にはハードルが高いとするUターン者や将来の就農・就職を目指す人の受け皿にもなっている。ただ、派遣者が足りない組合もあり、派遣する若者らのやりがいや働く環境整備が課題だ。
長崎県対馬市 「対馬づくり事業協同組合」
長崎県の離島、対馬市。特産化を目指すユズの幼木を前に、農家で「対馬づくり事業協同組合」の長郷泰二組合長が夢を語る。「販路はあり、ユズの島にしたい。組合で働く若者と一緒に収穫するのが楽しみ。『島においでよ』と言いたい」
同組合は2022年に設立。働く若者らは現在4人だ。ボーナスはないが、正社員で雇用され福利厚生もある。「組合は人手不足解消だけではなく地域づくりが鍵。このままなら沈む島だが、組合を受け皿に若い人が来てくれたら島に希望が見える」と長郷組合長。そのためにも今後、派遣する社員の雇用環境の改善に取り組む。まずは島内で組合を周知し、出資する組合員を増やし経営を改善することが当面の目標だ。
古里にUターンした阿比留善光さん(52)は「マルチワークに興味があった。福利厚生もある」と昨年秋から同組合で働く。
同組合は農業法人や小売店、食品加工、ガソリンスタンド、JA対馬、豊玉町漁業協同組合など島内22企業が組合員だ。
昨年4月から、島の地域おこし協力隊の川邊裕太郎さん(32)が事務をサポートしているのも同組合の特徴だ。島の移住政策とも結びつけ、派遣者と組合員の相談や困りごとの調整に対応する。
JAでは資材などの購買業務で働いてもらう。JA職員をハローワークなどで募集しても応募が限られ、派遣は農繁期などに助かっているという。JAの縫田和己組合長は「島はあらゆる業種が人手不足。農家数が減る中、いろいろな業種の組合員と深くつながることもできる新たな協同組合の魅力」と考え、展望する。
労働者協同組合
自分たちで決める働き方
ワーカーズコープと親しまれる「労働者協同組合」。2022年に法律が施行され法人格が認められた。労働者自身が組合員となり話し合って事業を決める働き方が特徴だ。3人以上いれば、簡単な手続きだけで法人格を取得できる。2024年12月時点で32都道府県117組合が誕生した。介護や農業、子育て支援、加工など事業内容も組合員が話し合って決める。JAや漁協など既存の協同組合や「特定地域づくり事業協同組合」と同様に、地域社会に寄与する仕事が続々と生まれている。
若者や高齢者、移住者ら、組合員が自分たちで働き方を舵取りもできるため、多様な働き方も広がる。

兵庫県豊岡市
労働者協同組合アソビバ
兵庫県豊岡市の「労働者協同組合アソビバ」は、地域おこし協力隊の現役・卒業生の3人が23年5月に設立した。マルシェの企画、木工品の販売やパンフレットの作成などを手がける。3人それぞれ本業は他にあり、同組合の仕事は全員が副業だ。
東京都出身の協力隊・杉本悠さん(40)は「軽いノリで立ち上げた。ゆるやかに働ける」と明るく話す。杉本さんは現在、協力隊として映画と地域づくりの業務を担う。今春協力隊を卒業し同市を離れる予定だが、同組合の組合員であることは変わらず、今後も同市と関わり続けたいとする。組合は、協力隊卒業後の居場所の一つにもなるという。
元協力隊員の上田詩恩さん(25)は、普段は森の幼稚園やコミュニティーセンターのスタッフとして働く。「アソビバは空いている時間に関わることができる。今年はアソビバで京阪神のマルシェに、木工品の出店ができたらいいな」と展望を描く。
元協力隊員で、現在は同市で会社経営する武藤保貴さん(31)は「いろいろな仕事、給料体系の組み合わせが自分たちの状況に合わせてできるのが労働者協同組合の強み。副業が持て、立ち上げて良かった」と話す。