おかべ・ゆみこ 中央畜産会を経て、アグリフューチャージャパンにて若年層の農業者育成の仕事に関わり、2019年より現職。農業系高校や大学、法人で人材育成に携わる。
こばやし・けいいちろう 1975年神奈川県出身。2023年に三菱商事からサラダクラブ常務取締役として出向。24年2月より現職。戦略企画、原資材調達、広報・広告宣伝を担当する。
たけうち・まこと 1985年生まれ。広島市でミニトマト50アール、広島菜30アールを栽培する。2022年広島県農業協同組合青壮年連盟委員長などを経て、24年から現職。
はらだ・ひか 1970年、神奈川県生まれ。2007年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。著書に『三千円の使いかた』『一橋桐子(76)の犯罪日記』など。本紙で「一橋桐子(79)の相談日記」を23年11月から24年10月まで連載。
--日本の農業・農村、食の現状、今後の方向性をどう考えているでしょうか。
武内誠委員 広島で農業をしています。農協青年部として全国の農業者と会う機会がありますが、みんな同じ悩みを抱えています。あと5、6年で農業者が一気に減っていく。僕の地元は中山間地で、耕作放棄地がどんどん増えています。今の担い手がどこまで、余った農地の面倒を見ていけるか。限界もあります。果たして消費者の胃袋を守る“安全保障”ができるのか、疑問に感じます。
生産コストがどんどん上がっていますが、価格への転嫁はなかなか難しい。あおるわけではありませんが、現場の危機感を消費者にも考えてもらうきっかけが、もう少し増えてもよいのかなと思います。
小林慶一郎委員 サラダクラブで調達を担当しています。最近、日本人の野菜摂取がまた減ったという記事もありました。野菜をもっと食べていただくことをベースに活動しているので、この流れは変えないといけないと思っています。
産地で話を聞く機会がありますが、生産者の環境が厳しいのはその通り。人件費に資材費、物流費と上昇し、収入が減っているのは明らかです。生産者の数が減る中、今年は夏の猛暑が長くて栽培が難しく、野菜の高値が続いています。調達をやっていると、需給バランスが変わってきていると強く感じます。
パッケージサラダは、単身世帯の増加や時短ニーズで市場を伸ばしてきました。しかし今、(店頭価格が100円以上にならない)「100円の壁」があります。野菜相場が高騰する中でこの壁を突破できないと、生産者に利益を還元できず、共倒れになってしまう可能性があると考えています。
若手農業者と話していると、志や情熱を感じます。これがしっかりと続くよう、今の仕組みを変えないといけません。時間はかかりますが、農業者、小売業者と丁寧に話し、サプライチェーン全体で持続可能な形を考えていく必要があります。
岡部由美子委員 農業の若年層の教育に携わっています。教育の現場で感じるのは、農業と全く関係のない学生が関心を持ち始めていること。斬新な発想で、「今食べているものが将来食べられなくなるんだ」など、自分たちの生活の延長で農業を捉え、情報を求める機運ができていると感じます。
そんな中で思うのが、受け入れる農村の懐の深さです。農村は、子どもたちが育つのに素晴らしい環境がいっぱいあるということは、意外に体験されていないかもしれません。
これからは、もっと人口が流動的になっていくと思います。農業に関わった経験を通じて都会から新たな働き手の供給ができるかもしれないし、東京と山形など、住民票を二つも三つも持つことが当たり前な時代が来ると、希望を持っています。
原田ひ香委員 ご縁があって「全国漬物グランプリ」の審査員をしています。高校生や大学生からの応募もあり、すごく頑張っているので、先生方と「そのうち『漬物甲子園』やりたいね」という話もしています。
かつて住んでいたシンガポールは、水も電気も食べ物も100%輸入。価格は日本よりも全然高かったです。自分の国で作っていないと足元を見られ、高い値段で買わざるをえない。それを見た時、農業は絶対守らなきゃ、と思いました。今、「すごく高い」という声がありますが、逆に今踏みとどまらないと、もっと高いものを買わなきゃいけなくなりますよね。

--そうした中で農業メディアに期待したい役割はありますか。
小林委員 (2024年に)キャベツが高騰した時、メディアは「原体野菜が高いからカット野菜がお得ですよ」というような取り上げ方をされていました。
そんな中、日本農業新聞が「カット野菜 原料高騰も価格転嫁進まず」という記事を出していただいたことで、最近のメディアの論調が変わってきたと感じます。また、ヤフーニュースで消費者、小売業者、加工業者、消費者、それぞれの立場からたくさんのコメントが集まっていたのが印象的でした。
今のメディアは双方向になっていて、すごく良い。いろんな人の意見が出る一石を投じることで、相互理解が深まり、望ましい方策が出てくるヒントになると思います。
原田委員 最近、「キュウリ1本178円」というニュースが出ていました。「いや、真冬だから安いわけないじゃん」と思うけれど、そういう話が割と大きく出ちゃう。
お米もそうで、(高いと)大きなニュースになりました。その時、日本農業新聞の「米は本当に『高い』の?」という記事を読み、X(旧ツイッター)で「こんな風に出ている。他のお店に行ってみてはどうですか」と書き込みました。
他のマスコミがいう事を、違う視点である種、”抗議”していくのも、これからの時代(のやり方)。こうしたことをネットニュースにも出していけば、リポストも増え、新聞を購読していなくても見てくれる人がいると思います。
武内委員 農家の視点で言うと、経営に役立つ情報は重要です。一方で、消費者に農業・食への理解を醸成するツールとして、農業メディアはとできることがあると思います。
青年組織で活動する中で、次の世代にしっかり農業をつなげていく大切さを感じます。そのためにも、消費者への理解醸成は大切。子どもたちに「食料が今あることが幸せなんだよ」と少しでも分かってもらえたら、作り甲斐があります。
青年部で重きを置くのが、農業の魅力発信です。どうしても大変な部分に目が行きがちですが、魅力を発信することで、「やってみたい」と思う子どもが現れるかもしれない。農業・農村にこんなに魅力があると目にする機会は意外に少ないので、農業メディアに期待したいです。
岡部委員 教育現場の学ぶ方向性が変わる中、どう教えたらいいか分からない先生方がまだ多い現状があります。消費者への情報提供もさることながら、もっともっと垣根を越えて小学生、中学生、高校生と、対象を広げてはどうでしょうか。
そこで情報を得た生徒、学生がわざわざ農村へ行き、体温を感じる経験をすることで、イノベーションを考えるだろうと思うのです。(これまでの)日本農業新聞の枠を超えて、若い人の検索に引っかかる、農村や農家の魅力をもっと外に出していく発信があったら、いいなと思います。