分娩監視装置で生産率が過去最高に! モバイル牛温恵
宮古島市の肉用牛農家は60歳以上が73.45%と高齢化が進んでいる。さらに、2011年に1089戸あった飼養戸数は21年に619戸まで減少。子牛の生産頭数も年々減少傾向にある。そこで市が生産効率向上のために取り組んだのが「分娩監視装置等導入事業」だ。
15〜17年度まで実施されていた県単独事業を活用し、市では9戸の農家がモバイル牛温恵を導入した。その後、導入農家から好評だったため、県に事業継続を頼んだが予算の関係で叶わず、19年度から市単独事業として最大20万円までの補助を設けた。繁殖牛の妊娠期間は約10カ月。モバイル牛温恵の導入で分娩事故をゼロに防ぐことができれば安定して年1産サイクルが実現し、生産率が向上すると考えた。
徐々に効果を実感
飼養戸数や生産頭数は年々減少している一方、モバイル牛温恵を導入した農家が増え始めた16年度以降の生産率は右肩上がりで推移している。20年度には累計63の農家が導入し、市全体の平均生産率が93.1%と過去最高を記録した。そのうち未導入農家の生産率が90%、導入農家の生産率は105%と、15ポイントもの開きが生じ、モバイル牛温恵の導入が生産率の向上に貢献していることが分かった。導入農家からは「分娩事故がゼロになった」という声も届いているという。
(左)導入後の生産率は右肩上がり モバイル牛温恵が導入された16年度以降、飼養戸数や生産頭数は減少しているものの、生産率は増加傾向で推移しており17年〜21年は90%以上をキープしている。 (右)宮古島市全体の20%以上を対象に調査 20年度までに導入された牛温恵は63基。導入した農家の繁殖牛の頭数は1,066頭で、全体(5,203頭)の20%を超えており、十分な結果が得られるサンプル数と考え検証した。 |
牛舎が自宅から離れた場所にあることが多く、農家にとって見回りが大きな負担となっていた宮古島市。現場からは、モバイル牛温恵を導入したことでその苦労から解放されたという声も挙がっている。和牛繁殖経営歴55年のベテラン・上地豪一さんは「まるで牛が呼んでいるかのように通知が届き、安心して出掛けられる。使い慣れてから分娩事故はゼロ。勧めた仲間にも喜ばれている」と太鼓判を押す。見回りをしていない時間の分娩事故を機にモバイル牛温恵を導入した野路美由希さんは「3年間で繁殖雌牛が8頭から18頭に増えた。家事やパート仕事と畜産業を両立できている。モバイル牛温恵のおかげで女性一人でも畜産農家になれる」と力を込める。
(左)上地豪一さん 和牛繁殖経営歴55年のベテランで現在は妻・息子と3人で22頭を飼育。2カ月連続でせり値1位になるなど高品質な牛農家として定評がある。 (右)野路美由希さん 3年前に就農。放牧と粗飼料を基本に育てた牛は肥育農家からの評価も高く、平均以上の高値が付く。宮古和牛改良組合の女性部部長としても精力的に活動中。 |
当初、事業対象は飼養頭数9頭以上という制限があったが、市は21年に改正し制限をなくした。大規模農家に比べ、小規模農家の死産1頭に対する負担は極めて大きい。全ての農家が事業の対象となったことにより21年度は11農家、22年は10農家が導入し、23年現在は計84農家が利用している。導入に二の足を踏んでいた農家も前述の成果を人づてに聞き、導入に踏み切るケースも多いという。
地道な積み重ねで分娩事故ゼロへ
宮古島市役所は、毎月せり市場に出張窓口を設け、農家と世間話をしながら補助メニューの案内をするなど、頻繁にコミュニケーションを取っているという。同市農林水産部畜産課は「直近では宮古島市のせり市場で毎月400頭以上出荷できることが理想だが、21年度の生産頭数は4,715頭で、300頭を切る月もある。まずは分娩事故を無くすことで生産率を向上しながら、農家の負担を減らすことで繁殖牛の減少を防ぐ。時間はかかるが、モバイル牛温恵を活用しながら、粘り強く取り組んでいきたい」と展望を語る。
■お問い合わせ
NTTコミュニケーションズ株式会社
電話:0570-783-133 (モバイル牛温恵カスタマーセンター)
製品URL:https://www.ntt.com/business/services/gyuonkei.html
<制作=日本農業新聞 広報局>