他にも東京に出て、不思議に感じた点がたくさんあります。
名古屋では、料理にみそを付けたりかけたりすることが多いんです。トンカツは全国的にはソースのようですけど、私はみそしかかけたことがありませんでした。おでんもそうです。名古屋では和風ベースのだしで煮た種に、みそをたっぷり付けて食べるんですよ。東京のコンビニでおでんを買った時、みそが付いてこなかったのでびっくりしました。 同じように、東京ではコンビニで冷やし中華を買ってもマヨネーズが付いてこないんですね。名古屋では冷やし中華にマヨネーズをかけるのが当たり前で、コンビニの冷やし中華の容器には、マヨネーズが貼り付いてます。マヨネーズのかけ方は人それぞれ。そばにワサビを付けるような感じで麺にマヨネーズを付けてすする人もいますけど、私は全部ガーッとかけてしまう食べ方です。酢じょうゆたれの酸味が、マヨネーズのおかげでまろやかになります。
東京に出て来たことで、自分が生まれ育った名古屋の食文化を知ることができました。そして俳優の仕事も増えてきたことで、全国を回り、各地の食文化に触れることができるようになってきました。
今回「札束と温泉」という映画の撮影で、大分県の別府に行きました。現地で食べたといえば、なんといっても鶏天です。ロケ弁にはいろいろおかずが入っていたんですが、どの日の弁当にも鶏天は入っていましたので。「鶏天の食べ比べだね」と言いながら、毎日食べました。唐揚げとは違う独特の食感がありました。
別府は冷麺が有名だそうで、面白いのは温かいバージョンを出すお店があったことです。温麺というそうで、味は冷麺だけど温かい。ごま油が香ばしく利いていて、とてもおいしいんです。太麺で食べ応えがありました。冷麺といえば焼き肉屋さんでの締めの印象がありますが、別府ではそれ一食で十分満腹になるんですね。意外な驚きも含めて、鶏天より感動したかもしれません。 こうしていろいろな食文化に触れることで、逆に自分の食体験の原点を振り返るようになりました。
子どもの頃、岐阜で農業をする祖父母の家によく行きました。
ゴールデンウイークには親戚一同が集まって田植えの手伝いです。お昼休み、皆で田んぼそばの小屋でご飯を食べました。暑いから冷たいものがいいのと時間がないという二つの理由で、お昼は冷たいそばや冷やし中華で済ませていました。もちろん冷やし中華には皆、マヨネーズをかけて食べましたね(笑)。 田植えも大変ですけど、その前、ビニールハウスで苗を育てる作業も大変だと感じました。温度も湿度も高い中、祖母が何も言わずに水をあげている姿を思い出します。
作業が一段落した後、祖父母の話を聞くのが好きでした。農協の〇〇さんの話とか、××さんからこの野菜をもらったから名古屋に持って帰りなさいとか、私が分からない人の話が多いんですが。
私がお米も野菜も大好きなのは、小さい頃から祖父母が育ててくれたものを食べていたからなのかな。私の身体は、祖父母が作ったお米と野菜を、母が料理してくれたことで出来上がったんだと感じています。親子三代の地産地消みたいですね。
祖父母の労力のおかげで育った恩返しの気持ちもあって、私は、祖父母の農地を継ぎたいな、次の世代のために農作物を育てたいなと思うようになりました。
さわぐち・あいか 2003年、愛知県生まれ。18年、ミスマガジングランプリを受賞したことを機に、さまざまな雑誌の表紙を飾り出す。21年には、最も表紙を飾った回数の多い女性に授与される「カバーガール大賞グランプリ」を獲得した。昨夏、ドラマ「彼女、お借りします」に出演して、俳優業にも力を入れ始める。主演映画「札束と温泉」は6月30日から全国順次公開。