僕の家のミートボールは合いびき肉、タマネギ、卵とパン粉の他に、ちょっとジャガイモが入っていました。日本の皆さんが思い浮かべるものの2、3倍くらい大きかったですね。ミートボールを焼いたフライパンで、肉汁をもとにしたソースを作るというのがこだわりでした。
今では少し変わってきているでしょうけど、スウェーデンでは昔から曜日によって出てくる料理が決まっていました。木曜日に食べていたアートソッパ(豆スープ)も印象的ですね。エンドウマメによく似た黄色い豆を使ったスープで、硬いパンとマスタードを添えた豚肉と一緒に食べました。特に冬の時期は、体が温まりおいしかったです。
向こうでの主食は芋なんです。ジャガイモは、野菜という部類には入らない。主食として、炭水化物として食べるんです。ゆでたり焼いたりマッシュポテトにしたり。伝統的な料理を食べる時の主食は、だいたいジャガイモです。
ですから日本に来て、ご飯と一緒におかずとしてジャガイモを食べることに、最初は違和感がありました。僕からすれば、ご飯もジャガイモもどちらも主食ですから。
今ではスウェーデンでも日本食を出す店が増えているようですが、僕が子どもの頃は、日本食はほとんど知られていませんでした。首都のストックホルムならおすし屋さんはあったかもしれないけど、田舎育ちの僕の周りでアジア料理レストランというと、中華くらいでした。
日本に来た最初の頃は、神奈川県で3カ月ほどホームステイをしました。その家では、伝統的な日本の朝食が出ました。ご飯にみそ汁に漬物。それに焼き魚とかがありました。
納豆は、最初の頃はちょっと食べられなかったです。でも毎朝出てくるのでちょっとずつ挑戦していったなら、やがて僕にとって欠かせないものになっていきました。
スウェーデンではお米というとジャスミン米などのタイ米が主でしたから、日本に来て初めて日本のお米を食べました。甘味があっておいしいと感じました。
納豆、漬物、みそ……。日本では発酵食品がたくさんあります。発酵食品を食べることに、抵抗は全くなかったです。スウェーデンでも、伝統的なシュールストレミング(ニシンを塩漬けにし発酵させた缶詰)をよく食べますから。
庭師の仕事を始め、一日の仕事が終わった後、たまに親方に連れられ、居酒屋で焼き魚を頼んで日本酒を飲むということがありました。スウェーデンでも魚を食べる文化があり、僕は焼き魚が大好きです。サンマ、サバ、それにホッケがおいしいですね。親方は仕事のアドバイスをしてくれました。僕は性格的にちょっと慌ててしまうようなところもありました。現場では危ないこともあるので、慌てたりしないで、やるべき順番をちゃんと守りなさいとか。上には上があるのだから、中途半端なところで満足しないで、常にもっと上を目指していきなさいとか。ありがたい教えです。
国籍を取得した自分は、日本の古い生活習慣などを取り入れることによって、日本人としての精神面を勉強したいという思いがあります。スウェーデンでは、旬の食材にこだわったり、季節によって料理が変ったりするようなことはあまりありません。旬の食材で季節を感じる料理を楽しむことは日本の文化の一つだと思い、大切にしたいと思っています。
むらさめ・たつまさ 1988年、スウェーデン生まれ。高校卒業後に来日し、語学講師として働く。23歳の時に日本伝統文化と関わった仕事をしようと、造園業に飛び込む。26歳の時に日本国籍を取得。俳優としても活動し、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(2021)での米軍将校役が話題に。「趣味の園芸」(NHKEテレ)にナビゲーターとして出演中。著書に「村雨辰剛と申します。」。