「こんなふうに農産物を売られると、適正価格に影響が出るのでは?」。Xの投稿と一緒に、日本農業新聞「農家の特報班」にそんなメッセージが届いた。Xにあったのは、軽トラックの荷台に山積みになったメロンの写真。「小玉2個500円」と手書きで大きく書かれている。記者が詳細を探った。
Xの写真には、荷台の奥に「秀2200円」と記された価格表が見える。3500円、4500円と、さらに高い値段の商品があることも分かる。
気になるのは価格帯だ。都内の青果卸に問い合わせると、アールスメロンの秀品は「卸値で1玉3000~8000円程度」と担当者。「秀品2200円は安すぎるのではないか」という。
本当に秀品なのかーー。現物を入手して調べようと、記者は投稿にあった千葉県の浦安駅に向かった。
平日午後6時。会社員や学生が行き交う駅周辺を巡回。だが、2時間が過ぎてもメロンを積んだ軽トラックは現れない。
駅周辺で聞き込みをすると、ティッシュ配りをしていた人や通行人から、「メロンの販売業者が警察官に注意されていた」「会社員が購入しているのを何度も見た」と証言を得た。確かに、この場所で複数回メロンが販売されていたようだ。

結局この日は見つからず、次に記者は、実際に購入した人を探すことにした。X上で「駅前の移動販売でメロンを買った」という投稿を発見。投稿主に話を聞くことができた。
投稿主によると、購入場所は神奈川県川崎市にある八丁畷駅前。「高等級」だという3800円のメロンを勧められた。「手持ちが1000円しかない」と伝えて離れようとすると、「1つくらい良いよ」と、1000円に値下げしてきたという。
投稿者はそのメロンを購入。撮影した写真を見せてもらうと、「土佐メロン会」のシールが貼られていた。
産地はこの売り方を把握しているのか。高知県土佐市の集荷卸業者である同会に問い合わせた。
担当者は「寝耳に水。そんな形で売られていると初めて知った」と驚く。写真も見てもらうと「明らかに3800円で売るような品質ではない」と戸惑った。

「アンテナが片方しかなく、網目も粗すぎる」。高知県の協同組合土佐メロン会の担当者は怒りを込めて、そう言い切った。
「うちは全量市場出荷。そのような業者と直接取引はしていない」と説明する。ただ、市場に出荷した後の出回り先は把握しきれないという。
同会の下位等級品は、全国の流通量が多い時期で「1玉200~300円」(担当者)。記者は、上位等級ではないメロンを「秀品」などと称して売っているのではないかと質問。担当者は「その可能性はある」と答えた後、こう続けた。
「産地にとって秀品は努力のたまもの。秀品でないものを秀品として販売しているなら、産地の評価を落としているも同然。やめてほしい」
都内の青果卸によると、規格外など下等級の「アールス」は、出回り量が多い時期で同500円未満。「外観品質が伴わない」(同卸)ため、ほとんどはジュースなどに使われる。
加工用などに回ることもある規格外品のメロンを秀品と偽って販売して、法に触れないのか消費者庁に問い合わせた。同庁は実物を見て判断しないと分からないとした上で「景品表示法違反になる可能性がある」(表示対策課)と説明する。
同法では、商品やサービスの品質、規格を実際のものより著しく優良だと誤認される表示を禁止している。今回のメロンの場合、見た目や味が表示内容よりも劣る場合、同法違反と見なされることがあるという。
記者がXの投稿を調べていると、ある傾向が見えてきた。「アールス」の出回り量が増える時期と、今回の軽トラの目撃情報が投稿される時期が一定に一致していたのだ。
今回の軽トラの目撃情報が投稿されていた時期は、4~8月が多かった。一方、2024年東京都中央卸売市場の全国の「アールス」の取引量も、4月から増え始め、8月にピークを迎えていた。
今年もまた「アールス」の出荷シーズンが本格化する。怪しい業者を見つけた場合はどうすれば良いか。浦安駅での目撃情報を踏まえ、千葉県警に問い合わせた。
不審な点がある場合は「販売している人とは直接関わらず、通報してほしい」(広報県民課)とした。不審点の具体例として、「産地表示がない」「明らかに価格が安い」などを挙げる。
