「地域の発展は歓迎すべきだが、一農家としては困っている」
建設中のTSMC工場から約3キロ。菊陽町の隣の大津町で酪農と和牛の繁殖を営む田代幸大さん(42)はこう話す。計190頭の牛を飼い、20ヘクタールの牧草地を借りているが、地権者の要望で3ヘクタールを返却した。うち1ヘクタールは転用後に半導体関連企業の倉庫建設が決まっているという。
TSMCの工場は、半導体の安定確保や国内の半導体産業の復権に向けた「攻めの国内投資」(岸田文雄首相)として、国が誘致した。経済産業省が最大4760億円の補助金を拠出。2022年から建設が始まり、24年の稼働を予定する。
これを受け、半導体の製造装置や材料、輸送などの関連企業も同県に進出する。同省によると、既に約80社が県内に拠点施設や工場を増設した。従業員向けの住宅需要もあって周辺の地価は急騰。農地売却を促される農家が増えているという。
県は農業に支障が出ないよう、原則として、転用は基盤整備を未実施の農地に限る方針だ。しかし、牧草はこうした農地で栽培することが多く、転用の対象になりやすい。
大卒の初任給28万円――。TSMCの工場は、エンジニアなど技術職の新卒採用で、全国平均を5万円超上回る賃金水準で募集している。同県のある農業法人の経営者は、県内の賃金水準の急激な上昇を懸念する。資材高騰下で賃上げをする余裕はなく「他産業と賃金差が大きくなれば今以上に人が集まらなくなる」と苦悩する。
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