日本農業新聞は11日、東京都内で開いた2023年度全国大会で、紙面の活用や情報共有を通じてJAの「不断の自己改革」を成し遂げることを申し合わせた。全国から430人のJA代表者らが出席。教育広報活動や新聞の普及・活用で優秀な成績を上げたJAなどを表彰した。東京大学大学院准教授の斎藤幸平氏が記念講演した。
目次
(クリックで各項目へジャンプ)
〈付録〉読者拡大運動、さらに
申し合わせは、JA福山市(広島)の占部浩道組合長が呼びかけ、JAの発信力を高め、情報の共有・活用でJA自己改革を深化させる方針を確認。組合員読者の拡大や、対話の強化に向けた購読・活用を進めていく。
港義弘会長は「『国消国産』運動と連動し、持続可能な国内農業の振興、国産農畜産物の消費拡大への国民理解醸成に力を入れていく」と強調。農業者の疑問を起点に、「現場目線」の報道を重視する方針を示した。
JA全中の中家徹会長は「食料安全保障の強化の土台となるのは、何といっても国民理解の醸成だ」と指摘。食・農業の大切さやJA、協同組合の果たす役割の発信、「国消国産」実践への役割発揮に期待を表明した。
野村哲郎農相は祝辞で、「全国のJAや農業者に意欲と視点を与え、それが生かされることで、自己改革のさらなる前進、進化につながっていく」と期待を示した。農水省の藤木眞也政務官が代読した。
表彰では、新聞の普及・活用で、JA福島さくらが日本農業新聞大賞に輝いた。優績通信員表彰は、年間最優秀記事の部でJAふくおか八女の野口紘平さんを選んだ。第19回一村逸品大賞は群馬県JAたかさきの「高崎生パスタ」が受賞。第48回読者の写真コンテストでは、新潟県南魚沼市の富所上さんの「冬将軍が降りてくる‥」が農水大臣賞に選ばれた。
体験発表
〈日本農業新聞大賞〉
志賀博之組合長
JA福島さくら
広報力アップに最重要
JAの広報活動では、組合員や地域住民とのコミュニケーションの場の形成を第一に考え、役職員一体で組織的に行っている。広報活動で日本農業新聞は最も重要な媒体だ。組合員や役職員が営農・生活の情報を共有するツールとして普及活動を継続している。
2022年度には、合計389本の記事を掲載した。毎週の常勤役員・部長会議では取材と記事掲載の予定を共有する他、各地区との情報交換も密にして取材に臨んでいる。
22年9月の「移動編集局」では、全国版紙面向けの記事21本を含めて計32本の記事を載せた。期間中は日本農業新聞の記者に同行して取材を行い、JAの広報力を高めることができた。その結果、農閑期の11月以降も出稿本数や段数を維持していくことができた。
普及運動は22年度当初からいち早く展開した。県の目標より100部多く設定し、4~9月に137部の増部を達成することができた。今後、電子版の普及にも努めていく。
〈優績通信員表彰〉
野口紘平特別通信員
JAふくおか八女
地域の可能性 気付けた
受賞記事で取り上げたのは、園地の近くに「コンポストトイレ」の設置を進めた研修生らの取り組みだ。農作業を担う女性のトイレ問題を循環型の仕組みで解決するだけでなく、研修生と地元の人たちが交流を深める魅力的な場だった。
コンポストトイレは、微生物が排せつ物を分解し、その後堆肥にする。消臭性や通気性を高めるために、地元の竹炭を使い、放棄竹林の解消にもつながる。
取材のきっかけは、福岡県八女市の農家民宿からの電話だった。農業や地方移住に関心を持つ多くの女性が研修していた。取材の前は、トイレを作る話だけで記事にできるのか不安だった。しかし、実際に取材をしてみると、女性が農作業に携わりやすくなるという問題解決だけでなく、研修生が地元の生活の知恵や、自然との共生について学べる取り組みだった。
自分とは違う立場の人たちの声を拾い、発信することで、農業や地域社会の隠れた可能性に気付くことができた貴重な経験だった。
「国民理解醸成への貢献期待」
日本農業新聞が食料・農業・農村に関する情報を日々発信していることに改めて敬意と感謝を申し上げる。
不測時の食料確保だけでなく、平時から国民一人一人が食料にアクセスでき、健康な食生活を享受できる社会を目指していく。食料や資材の過度な輸入依存からの脱却に向けた構造転換、人口減少の中でも国内生産の増大を図るための食料供給基盤の確立を政策の柱に位置付ける。生産者が未来に希望を持てるように農政を転換していく。日本農業新聞には農業関係者ら国民に食料・農業・農村に関する情報を発信し、農政の転換に向けた国民の理解醸成に貢献いただくことを心から期待する。(夕食会で、▷動画)
与野党各氏からも祝辞
夕食会には与野党の代表や、農相経験者の林芳正外相、齋藤健法相といった現職閣僚が参加し、祝辞を述べた。
自民党の森山裕選挙対策委員長は、食料安全保障強化に向け、「多くの人に食料の背景にある農業・農村の実態や国際情勢に関心を持ってもらうことが大事だ」と強調。本紙の適切な情報発信に期待を込めた。
公明党の山口那津男代表は「農業をさまざまな観点から“見える化”、理論化、そして政策化していく上で日本農業新聞の役割はますます大きくなる」と述べた。
立憲民主党の泉健太代表は「全国の情報を集めてより良い農政をつくっていく」と強調。全国の農業の情報を発信する本紙の役割・歴史を評価した。
国民民主党の玉木雄一郎代表は「現場に根差した情報収集力、編集力に感服してきた」と述べ、農業や地域の情報の的確な発信に期待を込めた。
会場には、自民の石破茂元幹事長や塩谷立総合農林政策調査会特任顧問、山田俊男都市農業対策委員長、公明の稲津久農林水産業活性化調査会長、立民の大串博志選挙対策委員長、社民党の福島瑞穂党首、共産党の紙智子農林・漁民局長らも訪れた。
【講演】斎藤幸平氏
東京大大学院・准教授
「複合的な危機」立場超え連帯を
現在、私たちは「ポリクライシス(複合的な危機)」と呼ばれる時代に直面している。地球環境の急速な破壊が山火事や洪水、熱波や寒波といった気候変動を引き起こし、食料危機のリスクを高める。食料危機に陥ればインフレや恐慌、食料・土地を巡る争いに発展する恐れがあり、さらにそれが気候変動対策を遅らせる。さまざまな要因が互いを増強し合い、制御不能になってしまう。
気候変動は不可逆的で、治療薬は存在しない。パリ協定は、気温上昇を産業革命前から1・5度に抑える目標を掲げているが、達成は絶望的だ。世界における2022年の二酸化炭素(CO2)排出量は過去最多だった。
所得別では上位1%のお金持ちが全体の15%に当たるCO2を排出しているとのデータもある。一方、気候変動という形でその影響を受けるのは、CO2排出量の少ない地域だ。経済成長を優先して環境を犠牲にしてきた資本主義社会からの転換が求められる。
危機感の表れとして国内で広がっている言葉が「持続可能な開発目標(SDGs)」だ。ただ、それは今まで通りの生活を続けるための“免罪符”になっているのではないか。本当の意味での持続可能な社会へ移行するには、技術革新に合わせて消費そのものを減らしていく必要がある。
例えば、飛行機を利用するほどマイルがたまる現行のシステムを、たまるほど運賃が高くなる「逆マイル方式」とする。良いアイデアではないか。技術だけでなく、消費の在り方や社会的な振る舞いの変化を議論していかなければならない。
「ポリクライシス」の時代。あらゆる課題に「当事者」として関わることは難しい。農業の問題に目を向けてもらうには「共事者」を増やすことが大切だ。事柄を共にする者という意味で、起点は農業体験や学校給食、道の駅での販売など、いろいろな場にある。一つの問題に閉じこもらず、立場を超えてつながる「共事者」の視点が、新しい大きなうねりをつくる。
大会の様子を写真で…
▼クリックで写真を見る
「一村逸品大賞」
審査委員長のやくみつるさん(中央)と大賞を受賞した群馬県のJAたかさきの「高崎生パスタ」
会場彩る「農の生け花」
大会会場を彩った「農の生け花」の展示。「農の生け花」愛好会東京グループのメンバーが制作した
展示ブースも盛況
日本製紙と井関農機の展示ブースには大勢の大会参加者が詰めかけた
各賞・受賞者一覧
▼クリックで一覧を見る
■農林水産大臣賞▽第48回読者の写真コンテスト・課題写真の部=富所上(新潟県南魚沼市)「冬将軍が降りてくる‥」
■日本農業新聞大賞
▽JA福島さくら(福島)
■日本農業新聞優秀賞
▽JAふらの(北海道)
▽JA松山市(愛媛)
■JA全中会長賞
▽普及率全国最高JA=JA士幌町(北海道)
▽保有部数全国最高JA=JA新いわて(岩手)
▽増部数全国最高JA=JAアグリあなん(徳島)
■日本農業新聞会長賞
▽長期普及優績JA=JA新はこだて(北海道)、JAびばい(北海道)、JAひがしかわ(北海道)、JA新得町(北海道)、JA中標津(北海道)、JAいちかわ(千葉)、JA東京あおば(東京)、JA愛知みなみ(愛知)、JA大阪北部(大阪)、JAあわ市(徳島)
▽普及拡大優績JA=JAはが野(栃木)、JAさいたま(埼玉)、JA福山市(広島)
▽諸事業普及優績感謝状=JA北海道中央会、JA新潟中央会、JA福岡中央会
■優績通信員表彰
▽年間最優秀記事の部=野口紘平(福岡・JAふくおか八女)
▽年間最優秀写真の部=畠山忠博(岩手・JA新いわて)
▽優績通信員=川原拓也(北海道・JAとまこまい広域)、安齋塁(福島・JAふくしま未来)、山田千晶(栃木・JAおやま)、松崎由来(長野・JA信州諏訪)、蜂矢守弘(岐阜・JAぎふ)、杉本誠人(和歌山・JAありだ)、平尾隆将(鳥取・JA鳥取いなば)、岡島みずき(徳島・JA徳島市)、永田和沙(鹿児島・JA鹿児島いずみ)
■第19回一村逸品大賞(▷特集ページ)
▽大賞=「高崎生パスタ」(群馬・JAたかさき)
▽金賞=「丘のおかしダイスミルク」(北海道・JAびえい)、「球磨茶ぷりん」(熊本・JAくま)
▽審査員特別賞=「リンゴにカシスを入れちゃいました!」(青森・三浦醸造)
■日本農業新聞賞
▽第48回読者の写真コンテスト・ニュース写真の部=糸賀一典(千葉県柏市)「黄金色の大地」
■記事活用エピソード
▽最優秀賞=樺澤理恵子(山形県上山市)