農産物の販売収入が基準を下回った際に補填(ほてん)する収入保険を巡り、2025年産の米価が現状より4割下落しても補填が受けられない可能性があることが本紙の試算で分かった。米価が低迷していた20~23年産の収入が基準に含まれることが影響している。国は収入保険を米価下落時のセーフティーネットと位置付けるが、25年産では十分に機能しない恐れがある。
収入保険で補填が受けられる基準は、過去5年の平均収入の最大9割。25年の収入保険では、20~24年の収入が基準になる。米農家の収入は収量によって上下するが、米専業で平均的な収量の農家と仮定すると、米価が収入の一定の指標になると思われる。そこで20~24年産の相対取引価格を基に試算した。
相対価格の20~24年産の平均価格は60キロ1万6236円。補填が受けられる基準はその9割水準の1万4612円になる。コロナ禍で米価が低迷していた時期を含むため、24年産の平均価格と比較すると、1万円以上低い水準だ。
25年産の下落幅が1万円未満だと、収入保険に加入していても支払い対象にならないケースがあるとみられる。下落幅が1万円を超えて基準に達したとしても補填額はわずか。仮に1万2000円に下落した場合、2612円分が補填される計算になる。
実際の農家の販売価格は、相対取引価格を約2000円下回る同1万2500円程度が目安になる。農水省の統計によると、60キロ当たりの米生産費は同1万5948円(23年産)で、再生産可能な価格を下回っても補填されない可能性が浮き彫りとなった。
米価の上昇や規模拡大などで収入増加が見込まれる場合に基準金額を引き上げる特例はあるが、保険の加入前に申請が必要。個人農家の場合は前年12月末までが申し込み期限のため、今から基準金額を引き上げることは難しいと思われる。
補填金を受け取れる基準収入が低いことについて、同省保険課は「基本的に米価はどうなるか分からない。見解はコメントできない」とした。
(金子祥也)
[ことば]収入保険 自然災害や市場価格の下落時に、過去5年の平均販売収入を基準に、最大9割の補填が受けられる。畜産を除いた農産物が対象で、1年以上青色申告をしていれば加入できる。米農家は約6万経営体が加入し、水稲栽培面積のカバー率は3割にとどまる。