山形県によると、2022年の県内の「つや姫」の作付面積は9944ヘクタール。県外では9県で生産され、宮城が5000ヘクタールで最も多いが、6県は近畿以西だ。島根が1400ヘクタール、大分が700ヘクタールと続く。島根が西日本最大の産地であることを確認した記者は、同県のJAしまねを訪ねた。
山間部の多い同県では、もともと耐冷性のある「コシヒカリ」が作付面積の7割を占めていた。だが15年ほど前から温暖化による高温障害が見られ、台風による倒伏被害も恒常化。別の品種として、県やJAが選んだのが「つや姫」だった。
山形県産「つや姫」の市場デビューは10年。島根県は同年に試験栽培を始め、12年に奨励品種に採用した。山形では晩生だが、島根では早生だ。22年産では県内作付面積の約1割に当たる。
松江市の農事組合法人・意宇の杜は14年に「コシヒカリ」から全て切り替え、23年は7ヘクタール作付けした。田中裕司代表は「栽培しやすく食味も良い。知名度が高く、価格が安定的なのも魅力だ」と話す。
山形県にも、西日本で栽培し、品種が認知されれば、山形県産のブランド力が高まるとの狙いがあった。県内限定生産とした主力品種「はえぬき」の教訓を踏まえ、デビュー前に県外にも周知し、約30県が試験栽培をすると、結果が良好だった西日本を中心に広まった。県内と同様に特別栽培・有機栽培に限ることを条件としており、品質も確保する。
戦略は奏功。米卸大手の木徳神糧は「知名度が上がり、小売店からは“本家”の山形県産への要望が強い」(仕入業務部)と話す。同県産「つや姫」は、農水省公表の相対取引価格で60キロ1万8000円を超え、他県産を3割ほど上回る。山形県は今後も他県での生産量を増やしてもらいたいという。
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