同集落約20戸が檀家(だんか)となっている曹洞宗佛名寺の本堂の裏には、真新しい合祀墓「佛縁塔」が建っている。先祖の遺骨を共同で納め、存命の住民もゆくゆくはここに入り永代供養される。寺によると、こうした取り組みは全国的にも珍しい。盆の法要などには70人ほどが集まり、地元野菜の販売イベントも行うなど、新たな交流の場となっている。
集落にはかつて、3カ所の共同墓地があり、住民で協力して管理していた。5年ほど前から墓を守れないという相談が寺に寄せられることが多くなった。森屋徹全住職は、2019年から合祀に向けた檀家との話し合いに乗り出した。
話し合いを主導したのが、水稲23ヘクタールなどを手がける西田良弘さん(45)だ。法要の前日などには1日がかりで草刈りや墓掃除を中心的に担っていた。西田さんは「農業と同じで若手への負担が年々重くなっている。自分たちの世代では当たり前だからと、次の世代にしんどい役目を残していいのか疑問に思った」と話す。
寺が中心になって、転出した子や孫世代にも連絡を取り、約1年かけ全檀家の合意を取り付け、20年に合祀墓が完成。個人で墓じまいしようとすると通常は数十万円ほどかかる永代供養料を1世帯8万円に抑えた。家の名前を刻む墓の棹石(さおいし)部分は、合祀墓の隣に集めてまつることで、墓を撤去する抵抗感を和らげた。これまでの共同墓地は更地にした。
檀家の総代を務める西田安夫さん(74)は「皆の肩の荷が下りるのはいいこと。先祖代々の墓へ獣道を登る必要もなくなり、お参りしやすくなった」と喜ぶ。
合祀墓では、集落外からの納骨も宗派を問わず受け入れており、1カ月に1件ほど契約があるという。地域と関わりがなかった人とも“仏縁”ができ、墓じまいを新たな交流を生む機会に変えている。
森屋住職は「転出が増えて連絡がつかなくなるなど、10年後では実現できなかっただろう。過疎化が進む全国の集落でも取り返しがつかなくなる前に今一歩踏み出すべきだ」と指摘する。
厚生労働省の統計では、墓じまいなどで都市部などへ遺骨の埋葬場所を変える改葬は21年度で約12万件と、10年前から1・6倍に増えている。