右肩下がり、目標と開き
国が初めて食料自給率の数値目標を設定したのは2000年。その前年に制定された現行基本法に基づき「食料・農業・農村基本計画」に定めた。
基本計画は、同法が掲げる基本理念の実現に向けた具体策や目標を定める。農業を取り巻く情勢変化に対応できるよう、5年ごとに見直してきた。
2000年に作られた最初の基本計画では、基本法を制定した1999年度に40%だったカロリーベースの食料自給率を2010年度までに45%に高める目標を定めた。一方で、最終的には「5割以上を目指すことが適当」とも明記した。
その後、05年の基本計画では、生産額ベースの目標を初めて設定。カロリーの低い野菜や果実の生産実態を反映する指標として新たに導入した。
旧民主党政権下で策定された10年の基本計画では、カロリーベースの自給率目標を50%に引き上げた。「わが国が持てる資源を全て投入した時に初めて可能となる高い目標」として設定した。
自民党の政権復帰後の15年の基本計画で再び45%に。「5割以上を目指すことが適当」との文言も削った。
現行基本法制定から25年。目標に掲げた食料自給率は上向かない。
高度成長期の1965年度にはカロリーベースで73%、生産額ベースで86%あり、国内消費の多くを国内生産で賄っていた。だが、その後、国内で自給できる米の消費が減り、海外に依存する畜産物や油脂の消費が増加。基本法が制定された99年度にはそれぞれ40%、72%に下がった。
直近の22年度はそれぞれ38%、58%にまで落ち込む。目標とそれぞれ7ポイント、17ポイントの開きがある。農水省は「輸入に頼る小麦や大豆の国内生産を増やす他、自給できる米の消費を促すなど、消費者の食生活を変えていくことも必要になる」(食料安全保障室)とする。
日本の食料自給率は、先進国の中で最低水準だ。カロリーベースで見ると、カナダやオーストラリア、フランス、米国などが100%を超える一方、50%を割り込むのは日本を含め、スイスや韓国などに限られる。
ただ、全ての国が元から高かったわけではない。1965年のドイツは66%、英国は45%だったが、それぞれ18ポイント、9ポイント伸ばしている。一方で、日本はその間に、36ポイント落とした。
会計検査院は昨年11月、自給率目標が達成できない要因の検証が不十分だと指摘した。
新たな指針へ 意見二分
現行基本法は、基本計画で定める目標として食料自給率だけを明記。国内農業の向かうべき方向性を示す「指針」と位置付けていた。
改正案では「食料自給率その他の食料安全保障の確保に関する事項の目標」を定めると規定。食料安保の状況を多角的に捉えるため、自給率以外の指標も定める方針だが、野党などは「自給率目標の格下げ」などと問題視している。
これに対し、坂本哲志農相は、肥料などの生産資材の確保状況など「食料自給率という単独の目標のみでは評価できない課題がある」と指摘。「食料自給率の重要性が変わるものではない」とする。
基本法農政の中心にあった食料自給率。その低迷ぶりをどうみるかは、これまでの農政の評価や政策展開の方向性に関わる。基本路線を踏襲し「足らざるを補う」改正を目指す与党に対し、野党の一部は抜本改正が必要と訴える。自給率が論戦の“発火点”になりそうだ。