「閉店したらパートのおばあちゃん数人を失業させてしまう」。宮城県大崎市の農家、浦上和子さん(72)が5月中旬、不安そうに言った。「わが家は働くデイサービス」を掲げる浦上さんは、地域に住む同年代の女性10人を雇用。素材を生かした無添加の味わいが人気の「しそ巻き」や「ふきのとうみそ」など手作り品を、10年前から池袋のアンテナショップ「宮城ふるさとプラザ」に出す。
しかし、高騰を続ける地価や増えるネット販売などを背景に、県は店舗が入居する商業ビルの賃貸契約(現行は年1億3147万円)を更新しないと決定。満期の来年2月を前に閉店し、原状回復工事に入る。県は新たな販売策を検討しているが、浦上さんは「私たち宮城の農家が誇る良いものを、多くの人が買える仕組みを考えてほしい」と願う。
一般財団法人・地域活性化センター(東京)によると、都内に展開する自治体アンテナショップは2020年の81店をピークに減少、23年は67店となった。要因は百貨店やスーパーなどに店を置く「集合型」が4分の1の5店に減ったためで、ビルなどに入居する「独立型」は62店と大きな変化はなかった。

万博翌年に控え大阪出店相次ぐ
ただ、今年は移転が相次いでいる。石川県は北陸新幹線延伸を受けて3月に銀座からJR東京駅八重洲口へ移転、新潟県は8月に表参道から銀座へ移す。各県それぞれがコロナ後の戦略を描く。
コロナ前の19年から減少していた東京以外の店舗は、20年75店、21年83店、22年87店、23年97店と増加に転じた。特に大阪・関西万博を翌年に控えた今年は、北陸3県に加え、高知県も7月に大阪に開店、岡山県倉敷市も同県では初めて大阪に店を出す。一方、埼玉県行田市のように、観光客の誘致とセットで市内に店舗を開く“域内型”も少なくない。
同センター担当者はアンテナショップの状況について、「『5類』移行後の売上回復が鮮明になった一方、地価高騰、デジタル化、インバウンド(訪日外国人)、24年物流問題など課題は多い」と指摘。大きな変化が起きているという。