トキ野生化拡大へ 環境省が来春にも5地域「公募」 「持続可能な農業の象徴に」
トキの野生化に向けて、放鳥地域の住民や農家、JAなど関係団体の理解と協力の他、餌となる多様な生物が生息できる環境の整備が求められる。「公募」は早ければ来年4月に始まるが、放鳥は2030年度以降となる見通しだ。
8日、専門家らで構成する「トキ野生復帰検討会」の会合がウェブ開催され、再導入事業の進め方などが議論された。
検討会では、13年目を迎えた佐渡島での再導入などの最新状況について、9月末時点の個体数が野生下で推定484羽、飼育下で183羽と順調に増えているとの報告があった。4月には、富山市や長野県安曇野市などで佐渡の野生個体の飛来も確認されたという。
一方、米需要の低迷や離農を背景に、佐渡島でもトキの餌場となる水田が減るなど、生息域の過密化で放鳥したトキの生存率や繁殖率が低下している問題が指摘された。病気による全滅を防ぐ遺伝的多様性を確保するためにも、佐渡島以外での野生化も必要だとの見解が示された。
環境省は来年2月予定の次回検討会で選定要件を決定し、全国の自治体に周知する。佐渡島での知見などから、トキが生息できる水田や森林など1万5000ヘクタール以上の確保や絶滅前の生息実績が重要な要件となりそうだ。
■島根、石川、新潟「関心」 本紙調査
日本農業新聞は47都道府県に対し、トキ放鳥の受け入れについて尋ねるアンケートを行った。8日までに46都道府県から回答があり、島根、石川、新潟の3県が「関心ある」と答え、意欲を示した。
島根県は、受け入れ候補地を「出雲市」と具体的に記し、「自然環境の保全や再生」に意義があると強調した。石川県と新潟県は市町村名を記さなかったが、受け入れは「米など農産物ブランドの確立」「未来世代への遺産」につながるとした。3県は佐渡島のトキを動物園などで分散飼育し、園内での繁殖実績もある。
一方、全体の約2割の11都府県が「関心ない」と答え、受け入れに否定的だ。約7割に当たる32道府県が「どちらともいえない」と判断を留保した。
<メモ> トキの絶滅と回復
19世紀まで東アジアに広く分布し、日本でも食物連鎖の上位に位置していた。明治以降、食用目的の乱獲や化学農薬の普及など環境の激変で日本産は2003年に絶滅。一方、中国提供の同種個体を佐渡島と4都府県で飼育繁殖。飼育個体と08年から同島で放鳥している野生個体が計約670羽まで戻った一方、生息域の過密化が進む。