2023年7月、アントニオ・グテーレス国連事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が到来」と警告を鳴らしました。世界気象機関(WMO)は、24年の世界平均気温がパリ協定の目標「1・5度」水準を初めて超えたと発表し、待ったなしの状況です。
地球のあらゆる場所が暑くなり、気候変動による影響が自然と向き合う農業の現場にとって深刻さを増していることは明らかです。国内の状況を見ると、気候変動への適応策が急務ですが、団塊世代のリタイアが徐々に始まり、気候変動の加速化が生産基盤の脆弱(ぜいじゃく)化に拍車をかけています。日本農業新聞が4月に行ったアンケートでは、農家や農業関係者の97%が気候変動で打撃を受けていると回答しました。農業の最も基本的な役割は、生命の再生産と食料の安定供給です。私たちの食卓は、これまでのように維持できるのでしょうか。
一般的には、農業はこうした気候変動の被害者としての側面が強調されます。同時に、食と農が地球沸騰化を促す加害者であることも考えなければいけません。生産性と効率性を最優先する現代の食料システムは、工業化・広域化・複雑化が特徴です。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、生産→輸送→加工→流通→消費→廃棄にいたる食料システムからの温室効果ガスが総排出量の23~42%、約3分の1に相当すると報告しています(IPCC第6次評価報告第3作業部会報告書)。地球沸騰化の緩和策において食料システムの転換と脱炭素化は必須で、これには長期的な視野と“地球市民”としての感覚が求められます。
持続可能な食料システムの構築は、生産と消費の持続性に注目が集まりますが、カギを握るのはその間をつなぐ「つながりの持続性」、すなわち「食と農をつなぐ仕組みづくり」です。「生産方法、食生活を変えましょう」と呼び掛けても現場は大きく動きません。食料システムの転換という難題に生産者と消費者が関心を持つ「仕掛け」と、そこから一歩進んで支え合う「仕組み」の提案が必要ではないでしょうか?
食と農をつなぐには、対話とコミュニケーションが不可欠です。なぜなら、生産と消費の間に存在する機能を当事者で引き受けなければ成立しないからです。この手間をいかに楽しめるかがもうひとつのカギとなります。レジリエント(しなやかな強さ)で持続可能な食と農の姿について一緒に考えていきましょう。

小口 広太
おぐち・こうた
1983年長野県塩尻市生まれ。専門は地域社会学、食と農の社会学。日本有機農業学会副会長。有機農業や都市農業の動向に着目し、フィールドワークに取り組む。主な著書に『有機農業:これまで・これから』(創森社)、『日本の食と農の未来:「持続可能な食卓」を考える』(光文社新書)、『農の力で都市は変われるか』(コモンズ、編著)など。