[論説]迫る「2024年問題」社会に優しい物流築け
厚生労働省によると、21年度に脳や心臓の疾患で労災認定を受けた労働者は、業種別ではトラック運転手ら「道路貨物運送業」が、最多の56件となり、全体の3割を占めた。年間の実労働時間も全産業平均を2割上回っている。長時間労働が常態化し、若い働き手が減り、日本の物流基盤は弱体化が進む。
政府は、過酷な労働環境の改善へ、来年4月からトラック運転手の時間外労働の上限を従来より短い年間960時間とし、労働時間と休憩時間を含む拘束時間も年間3300時間へと規制を強化する。運転手の負担を減らす上で重要だが、同時に輸送力の不足に直結する。
これが「24年問題」だ。民間シンクタンクは、24年問題によって、25年には全国の荷物総量の28%、30年には35%が運べなくなると試算する。
特に大きな影響を受けるのが農産物輸送だ。長距離輸送が多く、集荷場や卸売市場での荷待ち・荷降ろし時間が長い。このため運送業者から敬遠されがちだ。輸送力不足が最も懸念される分野だけに、対策が急がれる。
消費地から離れた産地では、運行距離・時間を短縮しようと中継拠点の整備が進む。鉄道や船舶などに切り替える「モーダルシフト」を取り入れ、輸送を集約・効率化することで、働き方改革だけでなく温暖化防止につながる効果も期待できる。そうした動きが広がってほしい。
物流問題は食料安全保障につながり、社会全体が担うべきだ。ネット通販の「即日配送」「送料無料」は買う側にとって都合はいいが、荷物を運ぶ運転手の負担に目を向けてきただろうか。運転手の確保に向け、働き方の改善に加え、賃金上昇は欠かせない。
激しい販売競争下でスーパーも、店舗の開店時間に合わせた納品で産地や運転手らに負担を強いている。こうした商慣習を見直すとともに、荷物の到着日にゆとりを持たせたい。生鮮品の流通は、鮮度維持が可能なコンテナや包装フィルム、拠点施設を含めた輸送網など、あらゆる技術や知恵を活用しよう。
岸田文雄首相は物流効率化に向けた政策を、6月上旬にもまとめるよう関係省庁に指示した。農畜産物を作る人、運ぶ人らがいて食料安全保障は成り立つ。便利な生活を支える物流の問題に、社会全体が目を向ける必要がある。