[論説]明治用水事故1年 地域挙げ整備補修急げ
事故を巡り、国の復旧対策検討委員会は事故の要因として、施設の地盤や設計、経年劣化が複合して起きた可能性があると指摘している。頭首工は1958年に完成。事故発生時には農水省が通知した農業水利施設の標準耐用年数(コンクリート製頭首工で50年)を超過していた。その間、設計当時の想定を超える流量が流れたことで、事故が発生したとしている。
農業にとって水は最も重要な資源の一つであり、それを供給する水利施設は農業に欠かせない。農水省によると、受益面積100ヘクタール以上の基幹的農業水利施設のうち、ダムや頭首工などの基幹的施設は2020年3月時点で7656カ所、水路の長さは5万1472キロある。施設の55%、水路の43%が耐用年数を超過し、老朽化の進行で突発事故も多発。21年度の発生件数は1332件で、02年度の4・5倍に達した。
従来は損傷した部分が増えた時点で、施設全体を再建設などの形で更新した。老朽化で標準耐用年数を超えた施設の再建設には、5・6兆円(19年度現在)もの費用がかかる。国の農林水産関係は2兆2683億円(23年度当初予算)であることを考えると、全老朽化施設の再建設を一気に進めるのは不可能だ。
農水省は、施設全体の中長期的な施設の状態を把握しつつ、劣化に応じ補修や補強などを行って更新時期を延ばすストックマネジメントへの転換を推進。各種助成制度も用意しているが、計画的な財源確保に全力を挙げるべきだ。
補修箇所の早期発見・早期対応には、地域の力も大きい。明治用水を管理する土地改良区は水路の点検などを行う他、総代を通じ破損などに関する情報を収集。これらの情報を総合し、補修などの計画を立てて保全している。
さらに、住民からの情報も大きな役割を果たす。水路がパイプラインや暗渠(あんきょ)となり、上部が道路や緑道になっているところも多い。散歩や移動中の住民が水路の水漏れといった異変を見つけると、行政を通じたり直接連絡したりする。
水利施設の老朽化に伴うトラブルの早期発見は、事故の防止と施設の長命化に大きな役割を果たす。早期発見には、地域全体で農業水利施設への関心を高めることが欠かせない。住民に広く周知するための取り組みが関係者に求められる。