[論説]「スマートシティ」の創出 農の課題解決力に期待
岸田文雄政権は昨年12月、地方活性化の切り札として「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を打ち出した。同戦略は①地方に仕事をつくる②人の流れをつくる③結婚・出産・子育ての希望をかなえる④魅力的な地域をつくる――ことを柱に据えた。
同構想実現に欠かせないのがスマートシティの創出だ。地域の資源やデジタル技術を生かした課題解決を目指す「デジ活」中山間地域と併せて、重要なプロセスの一つとして位置付けられている。
「田園都市」とは、都市と農村の魅力を合わせ持った“第三の選択肢”となる生活圏を指す。1898年に、近代都市計画の祖とされる英国の社会改良家エベネザー・ハワードが提唱し、第2次世界大戦後のニュータウン政策をはじめ、世界各国の地域計画に影響を与えてきた。
日本でも、阪急電鉄創業者の小林一三による室町住宅(大阪府池田市)や、渋沢栄一による東京の「田園調布」の開発が知られている。
1980年、首相在任中に急逝した大平正芳元首相は「都市に田園のゆとりを、田園に都市の活力を」と唱え、今回のデジ田構想の源流とされる「田園都市構想」を進めた。しかし、高度経済成長に伴って東京への一極集中が加速し、構想が実現したとは言い難い。
今回は、この構想をデジタルの力を最大限活用して実現する試みだ。農業・農村には食料供給や環境保全、生物多様性、水源かん養、文化の伝承などの多面的機能の他、都市住民が求める癒やしや安らぎ、教育、医療、介護・福祉の場としての働きがある。
JA全農は今年度から、JAグループ版スマートシティ「スマートアグリコミュニティ」の構築に本格的に乗り出した。農産物直売所やガソリンスタンドなどの経営資源や販売情報を活用。行政との連携も段階的に進め、組合員はもちろん、地域社会の課題解決に貢献していく方針だ。
JA福井県経済連は地元の福井放送と連携した、農産物の直売・交流施設を来春オープン。デジタル技術を活用した情報発信の他、直売所や「道の駅」とのネットワーク構築を目指す。
農業・農村関係者からの働きかけで、都市と農村がそれぞれの機能を補い合い、双方の課題解決につなげる。誰もがその恩恵を享受できる仕組みを求めたい。