[論説]SFTS感染症の北上 急がれる治療法の確立
SFTSに感染すると高熱を発症し、血小板と白血球が急減し、臓器出血や脳症など意識障害をもたらす。農家の命のリスクが高まれば、食料生産の基盤が揺らぐ。
治療薬について現在、富士フイルムグループの富山化学(東京)が抗インフルエンザ薬「アビガン」の承認申請に向け、臨床試験の最終段階に入っている。ワクチンは長崎大学が開発中だ。食料安全保障の観点からも、SFTSの予防・治療法の早期確立に期待がかかる。
そもそもが謎の多いウイルス。感染者が国内で初めて確認されたのは10年前だが、いつ、どこでウイルスが生まれ、日本にどう伝播(でんぱ)したのか分かっていない。中国の疾病予防管理センター(CCDC)の研究グループは2021年、遺伝子解析により「1700年代初頭に中国浙江省で生まれた可能性がある」との論文を発表したが、中国で感染者が初確認されたのは2000年代に入ってからだ。
政府は、狂犬病やマラリアと同様、感染症法の「4類」に指定しているが、感染地域は東アジアにとどまっており、世界保健機関(WHO)はSFTSを「国際的な脅威」と位置付けていない。
国内で人への感染が確認されたのは、46種あるマダニの中で「フタトゲチマダニ」と「タカサゴキララマダニ」だけだが、感染者の半数は、どのマダニによるものか分かっていない。ウイルスの遺伝子が検出されたのは、「キチマダニ」など他にも3種類あり、研究者らは感染リスクを否定していない。ウイルスの実態解明には、東アジア各国の連携が必要だ。
今後、気温が高くなるが、圃場(ほじょう)や山林では、肌の露出が少ない衣服や長靴の着用が欠かせない。それでも完全に防ぐことは難しく、厚生労働省は、皮膚に赤い斑点を見つけたらすぐに受診するよう求めている。ただ、厚手の服装だと今度は熱中症の危険が高まる。ファンが付いた作業着や冷感タオルの着用、小まめな水分補給、規則的な休息など十分に気を付けてほしい。
マダニは、鹿やイノシシ、アライグマなどの野生動物、野鳥に付着して移動する。感染研では「全国どこで感染者が出てもおかしくない」と警告する。政府は治療法の確立を急ぐとともに、農家は感染防止を徹底しよう。