[論説]持続可能な林業 低コストと再造林が鍵
これまでは安価な輸入材に押され、国内の森林所有者の販売収入となる「山元立木価格」は低迷が続き、山林所有者の高齢化も進み、林業経営への関心は、農業ほど高まらなかった。林業経営の展望を見いだせなければ、人工林を主伐した後の再造林にまで手を出しにくい。
一方、森林の重要性は地球温暖化防止や、国土保全の観点からも増している。今夏も気候変動による山地災害が激甚化した。わが国では杉などの人工林は本格的な利用期を迎えている。林業を持続可能な産業とするには、主伐後の再造林が鍵となる。
林野庁によると、主伐面積に対する再造林の比率は3、4割程度。山元立木価格の平均は、杉で1ヘクタール当たり157万円だ。これに対し、造林初期費用は192万円に上り、収支が合わない。
こうした中、再造林率を高めている林業経営体もある。取り組み次第でコスト削減の余地はあり、利益が出れば再造林の拡大につなげられる。
農林漁業で最高の栄誉とされる天皇杯は2017年度、当時としては珍しく、苗生産者を林産部門で選んだ。受賞した宮崎県の林田喜昭さんは「国が苗木生産、造林に目を向けてきた」と受け止めた。以来19、20年度の天皇杯も苗生産者が受賞。造林重視の方向がうかがえる。
大量生産で低コストに供給できるコンテナ苗は、近年普及してきた技術だ。ドローンを使った苗木や鹿防護柵の運搬、苗木生産から造林までの一貫体制の構築といった低コスト化、効率化の取り組みが各地で出てきた。
加えて森林内の路網整備や間伐などの作業を、まとめて効率的にする制度も動き出した。コストを抑え、林業の収益向上につながる。
「山の日」とは、「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する日」である。山林の恩恵を未来につないでいくためには、伐採後に苗木を植えて育成し、下草刈りや間伐など適切な管理を担える足腰の強い林業経営体を、全国に増やしていく必要がある。
世界的な需要拡大に伴う21年の「ウッドショック」以来、国産の木材価格は上昇し、高い水準で推移している。相場が長期低迷していた時代とは様変わりしている。
「山の日」を契機に将来の山林の在り方、持続可能な林業経営を考えたい。