[論説]「農薬除去」うたう商品 効果の根拠、公的検証を
残留農薬の除去をうたう商品の代表例にホタテパウダーがある。ホタテ貝殻を焼成した強アルカリ性の粉で、水に溶かして野菜を洗うと残留農薬が除去できる、とする。交流サイト(SNS)では洗った後の水が濁ったり、油膜のようなものが浮いたりする様子を撮影し、残留農薬の危険性を指摘する投稿が目立つ。
日本農業新聞「農家の特報班」の実験では、有機栽培の農作物でもこうした水の変化を確認。農薬の除去効果に疑いが生じた。実験に協力した農薬学の第一人者・千葉大学の本山直樹名誉教授は、ホタテパウダーの効果は「水道水と変わらない」とする独自の検証結果をまとめた。
そもそも、市販の農作物で残留基準値を超える農薬が検出されることはほぼない。農水省の2021年度の調査で基準を超えたのは、2650検体中1検体だけだ。基準値は、生涯にわたって毎日摂取し続けたり、短期間に大量に摂取したりしても、健康に悪影響がないと確認している。
にもかかわらず、洗剤やスプレー、洗浄器など、残留農薬を除去する必要性や除去に効果があるとうたう商品は他にも数多く存在する。消費者の不安を過度にあおるものと指摘せざるを得ない。農薬の使用基準を守って使う慣行農法の農家の努力や、その生産物の安全性を不当におとしめることにつながりかねない。
商品の中には、農薬除去に効果があったとする検査結果を示すものがある。だが、どのような条件下で行われたのか、詳細が明示されていなければ信用はできない。除去の仕組みも、マイナスイオンやオゾン水など科学的根拠が疑わしいものも少なくない。購入しようとする人は、冷静に判断してほしい。
一方、子どものいる家庭など、食の安全に気を使う消費者は多い。その心理につけ込んだ詐欺的な商品が含まれている恐れもある。消費者庁や農水省などは、残留農薬の調査結果や残留基準値の設定方法を周知して不安の解消に努めるとともに、こうした商品の効果の検証もすべきだ。
過去には「空間に浮遊するウイルスや菌の除去」をうたった製品の表示に根拠がないとして、消費者庁が景品表示法に基づく課徴金を命じた例がある。農家や消費者の利益を損なうことがないよう、根拠のない商品には同様の厳しい対応を取るべきだ。