[論説]雑穀の栽培 拡大検討の余地はある
先月インドで開かれた首脳会議「G20ニューデリーサミット」では、米国のバイデン大統領や日本の岸田文雄首相を含む各国首脳に、インド伝統の雑穀料理が振る舞われた。会議では、雑穀と伝統穀物類の国際研究を進めることで合意。世界の食料事情を改善するため、技術研究への日本の貢献も期待されている。
インドは世界有数の雑穀生産国であり輸出国だ。新型コロナ禍での貿易縮小に加え、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化や中東での軍事衝突などで、多くの国が食料安全保障に不安を抱える。インドは自国での食料確保につなげる面でも、条件不利地で栽培できる雑穀に注目している。
日本の国際農林水産業研究センターが9月末に開いた雑穀セミナーでは、インドでも小麦や米の消費が伸び、伝統的な雑穀の作付けは減少傾向にあると紹介された。だが、この流れを変える動きが、インド国内で起きている。
インド政府は、雑穀の特性について、健康改善の効果や地球環境に優しいこと、少ない肥料で育つことなどを示し、生産振興に力を入れる。モディ首相ら政府関係者は「雑穀(ミレット)」ではなく「シュリー・アンナ」と呼ぶ。ヒンディー語で「スーパーフード」を意味し、イメージを変える戦略を打ち出す。
鉄分などミネラルが豊富な点にも注目。「食料自給」ではなく「栄養自給」という言葉を使うのも、イメージ戦略の一環だろう。国を挙げ、生産者から消費者までを巻き込み、食料安全保障の強化につなげる狙いがある。
セミナーでは、雑穀振興に向けたインドの取り組みと、日本との熱量に差があるとの声も聞かれた。生活習慣病など健康を巡る問題は、日本もインドも同じ。地球環境保全の観点から、施肥が少ない低投入型作物への関心が高まっていることも共通している。農村部の所得向上と、加工を組み合わせた他産業との連携を目指す点も似ている。雑穀に対するインドの姿勢は、日本の参考になる。
「国際雑穀年」を機に、日本農業が抱える問題の解決策の一つとして、雑穀栽培にもっと目を向けたい。水田への侵入を防ぐために、導入の際は水系への配慮は必要だが、地域振興や耕作放棄地対策、加工品を取り入れた農商工連携の手段として検討する余地はある。